父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
ヤニス・バルファキス 著
(ダイヤモンド社/1500円)

 資本主義の矛盾が蓄積する現在、貧富の格差は広がる一方で、金融政策や財政政策のような伝統的な経済運営手法の限界が露呈している。

 この結果、各国におけるポピュリストの台頭など、社会の根幹に関わる変化が起こり、さまざまな立場から新しい形態の資本主義の模索が始まった。2009年に勃発した「ギリシャ経済危機」の渦中に財務大臣を務めた経済学者である著者は、(彼の娘を含めた)誰もが経済の仕組みについて理解することが民主主義と文明社会を守るために不可欠だとの意図から、本書を執筆した。つまり、「経済は、経済学者や政策当局に任せておくには重要すぎる」というわけだ。

 著者は、すでにいろいろな価値観がまとわりついている「資本主義」という言葉を避け、「市場社会」という用語を使う。市場社会の大局的な歴史と、現在私たちが直面する危機に対する解決案を論じる。まずは、格差の起源から検討を始める。初期の狩猟ないし採取社会では、人口増に効率的に対応できなかった地域では、農業社会へと移行したことによって「余剰」が生まれた。余剰の蓄積や交換から市場社会が始まった。農業を必要としなかった(従って、資本を蓄積しなかった)豊かな地域は資本の蓄積に成功した社会の植民地にされることで、世界的な市場社会に強制的に組み込まれた。

 余剰の発生で、才覚や運の違いにより、「社会階層」が生まれた。また、効率的な余剰管理のために貨幣と債権債務や資産を記録する手段が考案された。そして、資本の蓄積で、お金を借りて事業を拡大できるようになった。しかし、お金には、コスト(金利)が掛かる。銀行などの資本家は、大きなお金を事業に対して投資する。

 一方で、機械化(資本化)により、労働者の賃金は下がる。賃金が下がると、事業家は不況を予測して、雇用を減らす。すると消費が減るため、企業は売り上げが減り、儲(もう)からなくなる。政府が金利引き下げなどの手を打っても、人々はますます不況になることを恐れる。そして、持つ者と持たざる者との格差は広がる、など。

 本書は、対症療法的な対策は有効ではなく、生産手段の部分的公有など、従来の市場社会の根本を考え直す施策が必要だと説く。賛否は別にしても、民主的な社会を守る活動に参加するための共有の知識として理解しておきたい。

 日々の経済事象に気を取られていると、ついつい忘れがちとなる“大きな歴史”の流れについて、専門用語を用いずに、基本的な概念を詳述する。経済学に馴染(なじ)みのない読者にもお薦めである。

(選・評/早稲田大学ビジネススクール教授 平野雅章)