「失敗したらどうしよう」などと考えない

 他にも、私が過去に踏み出した「日々の一歩」には、こんな話もありました。

 日経産業新聞を読んでいたら、「オーストリア航空の客室乗務員が、オーダーメイドのストッキングをはいている」という記事が載っていました。1センチ単位でストッキングの編みを調整できる機械があり、足と甲の周り、足首、ふくらはぎ、ひざ周りなど、寸法調整の利く部位を計測したのちに製造し、その人だけのオーダーメイドのストッキングができあがるというものでした。

 伸びる素材の商品に、そこまでの精緻さがいるのか分かりませんでしたが、それでも、ヨーロッパの客室乗務員が使っているならアリかも、ということで、記事を書いた記者にすぐに連絡をとりました。

 「このストッキングの日本総代理店をやりたい」と言ったところ、そのストッキングを販売している会社と繋いでくれ、本当に日本総代理店として契約を結べるかもしれない、という感じになりました。

 想定外にコトが前に進んだものの、私には貿易の知識がなく、そもそも契約する法人も持っていなかったので、つてをたどり、折角の機会を活かせるであろう方に、話を繋がせていただきました。

 これについても、「面白そうだな」という気持ちだけで動きました。

 「海外の話だから無理」
 「個人が突撃して日本総代理店なんてできるはずがない」
 「万が一、日本総代理店になったら、仕事との両立なんて難しいのではないか」

 と、できない理由探しはいくらでもできます。

 でも、そもそも、ミスミという会社で働いていましたから、「失敗したら、どうしよう」などということは考えませんでした。

 「ダメモトでアタックして、本当にダメでも損はない。本業との両立なんて、いざとなったらいくらでも考えられる」、そんな気持ちでいました。

 ちなみに、このオーダーメイドのストッキング事業の後日談としては、残念ながらうまく立ち上げることはできませんでした。オーストリア航空の事例に倣いBtoBで日本航空に売り込む、というような展開ではなく、広く一般の女性に販売するBtoCでチャレンジしたのですが、うまく売ることができなかったのです。

 ただ、そこから始まった縁は、すべてではありませんが、今も繋がっています。

 そのとき取り組んだ新しい一歩が、次の一歩を生み、20年以上経った今も続いていますから不思議です。

 このように、会社にいながら「好き」を探せる人は、じつはとても恵まれています

 独立起業して挑む「冒険の一歩」ではなく、会社員という生活の基盤がある中で「日々の新しい一歩」を踏み出せる環境にあるからです。

 読者のみなさんも、日常生活の中で「面白そう」「好きかも」と頭の中をよぎった「それ」を見逃さず、ライトな感じで「それ」に関することを調べるなり、アタックするなりして、「まず、やってみる」をしてほしいなと思います。

 【一歩目】 いつの日かの大きな一歩のための、日々の小さな一歩を。

守屋 実(もりや・みのる)
1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年にミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、エムアウトをミスミ創業オーナーの田口弘氏とともに創業、複数の事業の立上げおよび売却を実施。2010年に守屋実事務所を設立。設立前および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。自ら投資を実行、役員に就任、事業責任を負うスタイルを基本とする。2018年4月に介護業界に特化したマッチングプラットホームのブティックスを、5月に印刷・物流・広告のシェアリングプラットホームのラクスルを2社連続で上場に導く。