著者累計700万部突破のベストセラー作家で、現在8万部の『大富豪からの手紙』著者・本田健さんと、小泉政権では大臣として不良債権処理や郵政改革に当たったエコノミスト・竹中平蔵教授(東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授)の対談が実現しました。
今、日本が抱えている課題とその「処方せん」について、お二人に語り合っていただきました。
川を上れ、海を渡れ
竹中平蔵 1951年、和歌山生まれ。一橋大学経済学部卒業後、日本開発銀行入行。大阪大学経済学部助教授、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣、郵政民営化担当大臣などを歴任。現在、東洋大学国際地域学部教授、慶應義塾大学名誉教授。ほか、公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを兼職。
本田:私が書いた『大富豪からの手紙』では、大富豪の祖父が残した「9つの手紙」に導かれ、大学生の主人公が「人生の秘密」を追い求めて「旅」に出ます。
主人公は旅に出ることにより、人生を変えるために必要なことを学んでいくのですが、旅という、非日常の空間に身を置くことが、ひとつの重要な要素になっているんですね。
竹中先生は、「若いときに海外に出る」ことについて、どう思われますか?
竹中:とてもいいことですよね。私は若いときに、先輩から「川を上れ、海を渡れ」という言葉を教えていただいたことがあります。
「川を上れ」とは、歴史をさかのぼって見識を深めよ、という教えで、「海を渡れ」とは、海外に目を向けて視野を広げよ、という教えです。
「歴史を知ることと、海外を意識すること」は、今という時代を正しく認識し、未来を考える上で欠かせない作業です。
歴史は今につながっており、歴史を知ることで、今起きていることの意味や要因が理解できるからです。
また、海外に視野を広げることで、「井の中の蛙」のように狭くて古い常識に捉われることなく、違った角度から物事を見ることができるようになります。
本田さんも留学経験があるのでわかると思いますが、海外に出るということは、「アウェーで勝負する」ということなんですよね。日本にいるほうが心地良いし、ホームで勝負するほうがラクに決まっていますけど、自分をひと回り成長させたいなら、アウェーに出ないとダメだと思います。
本田:そうですよね。私も「旅は、人生を動かすもっとも手っ取り早い方法だ」と思っています。
竹中:この心地良さが永遠に続くのなら、「日本から出ない」のもひとつの生き方ですが、この心地良さが永遠に続くことはありません。
前の世代が頑張って残してくれた余韻と蓄積で、私たちは今、ものすごくいい思いをしているだけです。
本田:今はまだ、私たちの前を歩いてくれた人たちの遺産がある。けれど、それがなくなったら、終わりだと思っています。
竹中:はい。それに私たちは、次の世代に、「国債」というツケを残しています。日本の街並みがキレイなのも、交通網が整備されているのも、すべて、「次の世代からの借金」でまかなっています。しかもこの借金は、「次の世代の許可を得ていない借金」です。
だから今の私たちは、「本来の実力以上の生活というのをしている」ということです。前の世代の貯蓄を食いつぶし、次の世代にツケを残している。そう考えと、この心地良さにいつまでも浸かっていてはいけないですよね。