世界最高レベルのホスピタリティと奇跡とも呼ばれるサービスは、一朝一夕にできたわけではない。リッツ・カールトンはどのように伝説のサービスを生み出す組織になったのか? ゼロから現在のリッツ・カールトンを育て上げた伝説の創業者が語る成功法則。この連載では、同社の共同創業者、ホルスト・シュルツの著書『伝説の創業者が明かす リッツ・カールトン 最高の組織をゼロからつくる方法』(ホルスト・シュルツ著/御立英史訳)の記事からその驚くべきストーリーやノウハウを紹介していきます。

【東京オリンピックまであと1年】リッツ・カールトン創業者に学ぶおもてなしの3つの鉄則

1.欠陥のない製品やサービス

 どんな分野のビジネスであっても、お客様は次の3つのことを望んでいると指摘したい。それは何千件ものお客様のコメントから得た結論であり、自信を持って言うことができる。

 ボトルに詰めた水を販売しているなら、顧客が望むのは不純物が混ざっていないピュアな水だ。ボトルから水が漏れてもいけない。100%信用できるものでなければ買っても
らうことはできない。製品の欠陥は物理的品質だけではない。たとえば、なかなか開かないドアや、大きな音を立てるトイレも欠陥品だ。

 物事を進める際のプロセスやシステムにも、欠陥は存在する。お客様に、「領収書をもらってないけど」とか、「私のスーツケースはどこに行ってしまったの? パーティーがあるから3時間以内に着替えないといけないのに」などと言わせるのは欠陥サービスだ。

 この本を書くのを手伝ってくれたディーン・メリルは、最近、家族の葬儀のために、コロラド州の自宅からテキサス州ダラスに飛んだ。亡くなったのは86歳の男性だ。高齢だが健康状態は良好だったので、突然の訃報は子どもたちを驚かせた。

 ショックと悲嘆のただ中で、遺族は救急病院が紹介してくれた会社に葬儀を依頼した。大通りを半マイルほど行った先にある会社で、最初の手続きはスムーズに進んだ。だが、月曜の朝10時、家族や友人が葬儀場に到着したときから様相が一変した。

 まず、葬儀が執り行われるチャペルの案内には、まったく別人の名前と写真が掲示されていた。「えっ、それは申し訳ありません」とオフィスで働いている人は言った。「昨夜の表示のままになっていました。すぐに切り替えます」(欠陥[1])

 葬儀は、式を司つかさどる牧師のあいさつと聖書の朗読、そして祈りで始まった。しかし、窓の外から聞こえてくるうるさい音のために、参列者は心を集中させることができなかった。

 あれは何の音だ? 誰もがいぶかしく思った。乗用式芝刈り機の音だった。いらいらさせられる音が優に20分は続いた。葬儀の最中に芝を刈らなくてはならない緊急の理由があったのか? 葬儀が終わるまで待てなかったのか? (欠陥[2])

 葬儀の後半で、先に亡くなっていた故人の妻の歌の録音がチャペルに流れた。アンドレ・クラウチの「神をほめたたえよ」を歌った素晴らしいソプラノだった。参列者が故人に思いを馳せ、哀悼を捧げるために準備されたものだった。

 その歌に合わせて、何十年にもわたる家族写真がスクリーンに映し出される予定だった。幸せな夫妻、孫たちとのクリスマスの団らん、思い出深い休暇旅行などだ。故人の息子の一人が、何時間もかけて写真を集め、順番に並べ、葬儀会社のウェブサイトにアップロードしていた。しかし、歌声は流れたが、写真はついにスクリーンに映し出されないまま葬儀が終わってしまった。(欠陥[3])

 葬儀終了後、遺体は一家の墓地に埋葬されることになっていた。故人が生まれ育った東テキサスの小さな町の外れにある墓地で、葬儀会場からは90マイルほど離れた場所にあった。距離があるので、車列を組んで移動するのではなく、参列者がそれぞれ自分のペースで運転して向かい、墓地で集合することになった。複雑な道順ではなく、明確な説明もあった。州インターステート間高速道路20号線を東に進み、指定の出口から下りて10マイルほど行けば着く場所だった。

 12時半には参列者全員が到着した。墓地のスタッフの仕事も完了していた。テントが設営され、椅子が並べられ、シャベルを携えた埋葬担当の3人が少し離れた場所に礼儀正しく控えていた。だが、霊柩車が到着していなかった。15分経ち、20分経った。全員の目が道路の先へと向けられた。葬儀を手配した息子の一人が携帯電話を取り出して葬儀会社に問い合わせたが、「いま向かっています」という返事しかなかった。

 30分経ち、40分経った。汗ばむ暑さの中、お腹を空すかせて疲れ果てた一行が駐車場に向かい始めたとき、棺ひつぎを載せた霊柩車が近づいてくるのが見えた。ドライバーはただ一言、「道に迷ってしまいました」とだけ釈明した(欠陥[4])。それでなくても人々が心を痛めているときに、これはその日最大の失態だった。

 用意周到な会社であれば、このような不手際を防ぐために、常に予防的措置を取っているだろう。あるいは、何か失敗があれば、直ちに社員を招集し、同じことが二度と起きないように対策を講じるだろう。