視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
郵便だけではなかった
前島密のインフラ改革
私はかつて「日本のインターネット」立ち上げの現場にいたことがある。日本初のインターネット専業会社の起業に参画していたのだ。今から約30年前のことだ。
若い読者には想像できないかもしれないが、当時の日本では一般の人はインターネットに接続できず、その存在すら知られていなかった。ごく少数の大学や企業の研究所などが実験用につなげる回線があるのみだった。
私が大学院を修了して就職した企業の研究所では、幸いなことにその実験用インターネットを利用できた。国際専用回線で米国の学術系インターネットともつながっており、私はそれらを使って研究していたのだ。
しかし、残念ながらその研究所は、会社の事業の整理統合のあおりで閉鎖されることになった。
ちょうどその頃、日本全国どこでも、誰でも使える商用のインターネットを立ち上げる構想が持ち上がっていた。先述の実験用インターネットを主宰しており、今では「日本のインターネットの父」とも呼ばれる慶應義塾大学の村井純教授(当時は東京大学助手)らが描いた構想だ。
私は、研究でお世話になっていた村井先生に、研究所閉鎖の件を話した。すると「お前、それ、ちょうどいいじゃん!」と言い、その構想を実現するために立ち上げる新会社に私を誘ってくれたのだ。私は迷うことなく参画を決めた。
言うまでもなく、インターネットは、ほぼすべての国民の生活とビジネスを支える通信インフラに成長した。村井先生の構想通りになったのだ。