「闇社会の守護神」が語った
犯罪者と被害者意識の関係

 それがないと、「俺もこんなに社会から虐げられているから、通り魔やっても仕方ないよな」なんて感じで、「逆恨み」を正当化する人間がちょこちょこ現れてしまう。

 昔、事件取材をしていた時、いろいろな犯罪者と話をした。世間をあっと言わせた凶悪事件の犯人や、恋人をバラバラにした人間、ストーカーしたあげくに相手をメッタ刺しにした人間、いろいろ会って話をしたが、共通しているのはみな自分のことを「被害者」だと主張していたことだ。

 口では悪かったとか、反省しているとか言う。しかし、言葉の端々から伝わって来るのは、自分はこれだけひどい目に遭っているとか、辛い目に遭ってきたという自己弁護と、世の中や周囲が悪いという責任転嫁だ。そこで、こちらが少し同情的な雰囲気を見せると、わが意を得たりという感じで、「被害者アピール」をする犯罪者は少なくなかった。

 これは筆者だけが感じたことではなく、「闇社会の守護神」の異名をとった田中森一氏もそのような話をしていた。

 元・特捜のエースだった田中氏は、弁護士に転身した後、石油卸会社を巡る汚職事件で塀の中に落ちた。当時、田中氏の元には、いろいろな受刑者たちがこぞって訪れたという。そこで皆、口々に訴えるのは、「自分は被害者」だということだった。

「9割の人間が加害者ではなく、自分は被害者という意識だった。冤罪だから再審をしたいとか、調書を勝手につくられたとか。あと性犯罪者の場合は、相手の言い分ばかりを信用して、こっちの言い分を聞いてくれないとか。みな罪の自覚がないので反省もできない。そういう現実を目の当たりにして、自分が40年近くやってきたこの仕事とは何かと虚しさを感じたよ」

 田中氏の言葉には、非常に納得した。

 筆者は心理学者ではないので、犯罪行為と被害者意識の関係はよくわからない。が、数多くの取材経験から、両者に因果関係があるのは断言できる。

 ご存じのように、日本では事件の被害者が会見を開いたり、自宅に押しかけられたりと辛い目に遭う一方、加害者の人権は厚く保護されている。

 そんな犯罪者に優しい国で、今度は19人を襲った大量殺傷犯に「1人で死ね」と叩くのはいかがなものかという意見まで出てきた。事件記者をやっていた経験から言わせていただくと、ちょっと犯罪者に過保護すぎる気がする。

 世の中には社会の善意が通用しないどころか、逆に悪用をして自分の身勝手な犯罪を正当化するような人間も確かに存在しているのだ。

 苦しむ人に手を差し伸べる優しさも必要だが、「社会が悪いのではなく、貴様が悪い」と断罪できる厳しさも、日本社会には必要なのではないか。