森嶋には何も言うことが出来なかった。
そういう話は聞いたことはあるが、関心を持ったことはなかった。関係省庁とも違うし、遠い世界の出来事のように思っていた。しかし、今は身近に感じることが出来る。
「確実な話なのか」
「確かめるために北京まで行った。そして確証を得て帰って来た」
「信じろというのか。そんな話を」
「中国は常に次の世代を見据えて国家運営を考えている。なんせ、4000年の歴史と13億人の国民を持つ国だ。おまけに、その戦略は巧妙狡猾で多角的だ。頭脳も資金も潤沢にある。よほど腹を据えてかからなければボロボロにされる。気がつくと、あらゆるところに中国の手が回り、入り込んでいる」
たしかにその通りだ。東京の不動産、中堅どころの企業、北海道の山林、大学にさえも中国資本が入っているという話を聞いたことがある。いつの間にかGDPで日本を追い抜き、世界一のドル保有国になっていたのも中国だ。
「中国は同時に東友銀行のCDSも買っている。これが何を意味するか分かるか。東友が潰れてもいいということだ」
「潰す気なのか」
「中国に聞いてくれ。たしかなことは、どう転んでも中国に損はないということだ」
「お前の言ったように、ユニバーサル・ファンドが動き出している。中国政府はユニバーサル・ファンドにも資金提供をしているのか」
「俺はそれを調べていて、東友銀行のことを知った。俺にそれを話した中国人の友人は、一時間後には中国政府に連行されていったよ。それを見て、俺は慌てて出国した」
ロバートは苦しそうに顔をゆがめた。とんでもない話だが、彼の様子を見ていたら話も真実味を帯びてくる。