「東友銀行についてはどのくらい知っている」

「人並みよりも少しましな程度だ」

 ここ数日、日本の財政と金融について調べる必要があったので、都市銀行の資料にはざっと目を通している。

 東友銀行は、600店舗以上の国内支店と2万人の行員を抱える、いわゆるメガバンクだ。

 その預金高はおよそ50兆円、所有する総資産は130兆円を超えている。かつての銀行グループ統合時に3つの都市銀行が合併して出来たもので、現在、国内では京菱銀行、きぼうフィナンシャルグループに次ぐ、第3位の規模を誇る。

 一時は個人向け融資やコンビニATM、ネットバンキングなどをいちはやく導入し、バブル崩壊以降低迷していた業績をV字回復させた。しかし最近は、破綻寸前の大手家電メーカーや小売店への多額融資が、経営をかなり圧迫しているという噂もある。

「中国との関係は」

「聞いたことはあるが、詳しくは知らない」

「彼らはすでに日本のメガバンクに手を伸ばしている」

「東友銀行にか」

「東日本大震災後、中国の投資家が大量に株を買っている」

 何度か話題には上ったことはあるが、話題の域を出なかった。森嶋自身、深くは考えたことはない。大量といっても、割合としては大したことはないはずだ。せいぜい、数パーセントにすぎない。

「すでにかなりの株を取得しているという話だ。そこを足掛かりにして、日本経済を牛耳ろうとしている」

「主要株主規制というのがあって、金融、防衛関連企業など日本の安全に関係ある特定企業においては、外国人や外国企業が持つ株式の割合を制限している。いち外国企業が5パーセント以上の株式を保有すれば、営業5日以内に銀行議決権保有届出書を提出しなければならない」

「分散して取得すればいい。5社が4.8パーセントの株式を保有すれば、トータル24パーセントだ。あとでその5社を子会社化したり傘下に入れれば、実質的にはたちまち筆頭株主に躍り出る」

「中国企業がそれをやっていると言うのか」

「違う。やっているのは中国政府だ」