「中国の狙いはなんだ」
「分からない」
そう言ってロバートは森嶋から視線を外した。
「いや、分かっているはずだ」
「日本のデフォルトだ。ただし、これは俺の個人的意見だ」
デフォルト、国家破綻。その言葉は強い衝撃と共に、森嶋の脳裏に沁み込んでいく。
「日本がデフォルトして中国になんの得がある」
「お前、日本に帰ってそんなに頭が鈍ったのか。それとも、バカの真似をしてるだけなのか」
ロバートが森嶋の顔を覗き込んでくる。真剣な表情と目だ。
「東アジアの足かせがなくなる。この地域の領土問題も、資源、軍事、経済問題も、すべては中国の思うがままだ」
「そして、足かせのとれた中国は、今度は日本を足掛かりに太平洋へと乗り出していく。これは世界にとって、最大の恐怖であり危機だ」
「特にアメリカにとって」
ロバートは答えない。話の発端は、そこにあるのだろう。ロバートが森嶋の前に突然現れた時からの疑問が、パズルのように埋まっていく。
「俺にどうしろというんだ」
「なんとしても、中国の日本進出を阻止するんだ」
「俺は一役人にすぎない」
最近この言葉を多用している、と森嶋は思った。しかし、明治維新を掲げ、近代日本を作り上げたのも、田舎の名もない下級武士たちだった。
「日本がどうなろうと、自分には関係ないということか」
「そうじゃない。俺の能力を超えている」
「アメリカで何を学んだ。自由と民主主義の重要性だろ」
「それとは話が違う」
「いや、同じだ。お前は──」