立ち上がろうとしたロバートがよろめいた。テーブルの端をつかんで身体を支えている。

「いつ日本に着いたんだ」

「ここに来る3時間ほど前だ。その後、人に会っていた」

 かすれた声を出した。

 テーブルの缶ビールをつかむと、それも一気に飲み干した。

「北京では誰と会ってきた」

「大物じゃない。しかし、正直で真の愛国者だ。半日彼と話した。しかし今ごろ彼は――」

 ロバートは苦しそうに顔をゆがめた。

「ちょっと寝させてくれ。頭痛がする」

 ロバートは頭に手をやって言った。

「俺のベッドを使え」

 ロバートは森嶋のベッドに横になった。

「鎮痛剤を持ってくる」

 薬を持って部屋に戻ると、寝息が聞こえている。

 ロバートを覗き込むとすでに眠っていた。

 起こそうとして、肩に置いた手を止めた。

 顔には脂が浮き、目は落ちくぼんで、周りには隈が出来ている。

 2日前にマンションの前で分かれてから、おそらく一睡もしていないのだろう。

 森嶋は椅子に腰掛けた。

 ロバートの寝顔を見ていると、数分前の彼の言葉が浮かんでくる。中国政府の介入、そして、デフォルト。国家破綻など真剣に考えたことはなかった。

 ロバートの言葉はおそらく真実だろう。では、自分は何をすればいいのだ。

 自問したが、やはり思い浮かばない。携帯電話を取り出して、ボタンの上に指をおいて止めた。優美子か理沙に電話しようと思ったのだ。しかし何をどう話していいか分からない。黙って政府に任せておけばいいのか。

「やめろ……よすんだ」

 眠っているはずのロバートが、突然苦しそうな呻き声を出した。

 デフォルト、国家破綻という言葉が突然、現実的なものとなって森嶋の脳裏に迫ってきた。いずれ、本気でその危惧をしなければならない時がくるのかもしれない。そんなことがあっては、断じてならない。森嶋は強く心に誓った。

(つづく)

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