日本人の文化の高さを
声に出して読んで味わう

 万葉集は、天皇や皇后、その周りの皇子といった歴史上の人物たちの歌が残っていることから、古代史の資料として読み解くこともできます。

 当時の旅の苦労や食事の風景など、当時の人たちの暮らしぶりを想像することは、私たちの感性を広げることにもつながるでしょう。

 また、万葉集の歌には、現在の日本人に通じる心のあり方の原型を見ることもできます。
 桜を美しいと思い、恋にときめいたり、別れを悲しんだりする感情も歌に詠まれています。

 これは、私たちが今、カラオケで恋や桜を扱った歌を歌って盛り上がるのと似ています。
 万葉の人々と私たちとは、感情の原型がほとんど変わっていないこと、日本人の感性が今に残っていることにも気づくのです。

 万葉集の読み方は、江戸中期の国学者である賀茂真淵(かものまぶち)らを筆頭に、現在までさまざまに研究が進められてきました。
 万葉仮名を起源とする「ひらがな」が発明されたことで、私たちは万葉人がしていたような読み方に近づけるようになりました。

 このたび、新元号である「令和」の典拠として万葉集に注目が集まったのは素晴らしいことです。

 万葉集は、美しい日本語の宝庫です。
 このせっかくの機会に、万葉集の歌を音読し、昔の人の思いに心を寄せていただきたいと思います。

『1分音読「万葉集」』は、長い歌、短い歌を取り混ぜて、平均的に1分程度で音読していただくことをイメージしています。

 短歌においては、意味の取りやすさや読みやすさを優先させる意図で、あえて五・七・五・七・七の言葉の後ろにスペースを空け、改行を施しました。

 また、自分たちの心情を文字にして残そうとした古代人の苦労や工夫を受け取るという意味で、原文の漢字も併記しました。
 当時の日本語の味わいを、ぜひ感じていただきたいと思います。

【万葉集の基礎知識】

Q 万葉集にはどんな内容の歌が収められている?
万葉集の歌は、大きく三つの内容に分類されます。
「雑歌(ぞうか)」は種々雑多の内容の歌を指し、種類も多く内容も多様です。
「相聞(そうもん)」は、恋人同士の歌であり、親子・兄弟姉妹・友人などの間で贈答された歌も含まれます。「挽歌(ばんか)」は、人の死を悼み悲しむ歌です。

Q 和歌の形式にはどんなものがある?
「短歌」は「五・七・五・七・七」のフォーマットが定められています。
「長歌」は「五・七」のセットを2回以上繰り返し、最後は「五・七・七」で結びます。長さはまちまちです。
「旋頭歌(せどうか)」は、「五・七・七・五・七・七」の形式からなる歌です。
「反歌(はんか)」は、長歌のあとにつけられた短歌を指し、長歌の内容を要約したり、補足したりします。

Q 万葉集の時代区分は?
万葉集は、年代と歌風の違いから四期に分けられます。
「第一期」は、舒(じょ)明(めい)天皇が即位した629年から壬申(じんしん)の乱の672年まで。
「第二期」は、壬申の乱のあと、奈良遷都(せんと)が行われた710年まで。
「第三期」は、奈良遷都後、山上憶良(やまのうえのおくら)が亡くなる天平(てんぴょう)5(733年)まで。
「第四期」は、最後の歌が詠まれた天平宝(ほう)字(じ)3(759)年までとなっています。