マルチ商法と聞いて、それだけで縁を切りたくなる人も多いだろう。しかしもし、家族がある日突然マルチにハマってしまったら……。マルチ商法にハマったパートナーを持つ男性に、その葛藤を聞いた。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)
“なんでも治るプルーン”
この信仰にどう向き合うべきか
野球、宗教、政治の話題は、ある程度公共性のある場で口にしない方が良しとされている。誰が何に肩入れしているかはわからず、意外な人が実は熱烈な巨人ファンかもしれず、その人の支持はもはや理屈ではないので、他人に害されると極端に気分を悪くするおそれがある。
古くからマルチ商法、最近ではより聞こえがいいネットワークビジネスと呼ばれるものがあるが、あれも野球宗教に通ずる、“他者が侵害してはならない”聖域を持っている。
今回話を聞かせてもらったAさん(37歳男性)はマルチ商法を愛する女性を愛することが多く、当時「この人と付き合いたい」と思っていた相手の女性に家に招かれ、ヨダレを振り散らして飛んで駆けつけたら相手の実家で母親と姉が待っていて、そこまでは全然いいにしても実は彼女は家族ぐるみでマルチ商法(の商品)に傾倒していて、囲まれ、「このプルーンはすごい」「食べれば健康に良し」「傷口に塗れば治る」「肌に塗ればキレイになる」「骨折にも効く」「目に塗れば視力が回復する」「聖なる気があるので家のどこかに盛っておけば、おはらいになる」といったことを数時間にわたって聞かされ続けたらしい。
このケースの場合、おそらく多くの人が「荒唐無稽だ」と感じることでも、彼女一家にとってはそれが真理なのであるから、「売れば私たちのもうけになる」という打算はいくばくかあろうが、「本当に良いものだ」と信じているからそれを誰かに勧めたいわけである(あるいは「売ってもうけたい」が先にあって、その気持ちを正当化するために後から「本当に良いものだ」と信じるようにして補強を図ったのかもしれないが、この順序の考察に関してはここでは行わない)。