世界的に多大な影響を与え、数千年に渡って今なお読み継がれている古典的名著たち。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されています。しかし、そのような本はとんでもなく難解で、一冊しっかりと理解するには何年もかかるものもあります。本連載では『読破できない難解な本がわかる本』(富増章成著)から、それらの難解な名著のエッセンスを極めてわかりやすくお伝えしていきます。(イラスト:大野文彰

3分でわかる! アドラー『人生の意味の心理学』

劣等感があるから前に進める!

 アドラーはフロイトとの交流があり、フロイトの「ウィーン精神分析協会」の会長を務めていました。しかし、すべてをリビドー(性的エネルギー)に還元するフロイトの汎性欲説に異を唱えて、彼から離れていきました。

 フロイトの精神分析では、過去の経験が原因で、リビドーが心の奥底に滞っているとします。ところがアドラーは、過去の経験が私たちの何かを決定しているのではなく、私たちが過去の経験にどのような意味を与えるかによって自らの生を決定づけていると考えました。この人生に対する意味づけを「ライフ・スタイル」といいます。

 また、私たちはいまよりも優れた存在になりたいと思いながら生きています。アドラーはこれを「優越性の追求」と呼びました。人間はもともと無力感をもって生まれて生きています。この世に生を受けた瞬間から一人では生きていけないわけですから、無力なのが当然なのです。でも、人間はここから抜け出してより高い存在になりたいと願います。

 「すべての人を動機づけ、われわれがわれわれの文化へなすあらゆる貢献の源泉は、優越性の追求である。人間の生活の全体は、この活動の太い線に沿って、すなわち、下から上へ、マイナスからプラスへ、敗北から勝利へと進行する」(同書)

 しかし、「優越性の追求」をしても、人生そうカンタンにはいきません。そこで人は「劣等感」を覚えるわけです。でも、この「劣等感」が重要で、なんと人類のあらゆる進歩のエネルギーとなっているというのです。つまり、フロイトが人間の根源的な力がリビドー、すなわち「性的エネルギー」であるとしたのに対し、アドラーは、人間を動かす根源的なエネルギーが「劣等感」であると考えたのです。

3分でわかる! アドラー『人生の意味の心理学』