前回のコラムでは、台頭するアジア企業に優れた技術を狙われ、欧米企業に対してはプレゼンスを失いつつある日系企業の現状を取り上げた。今回は少し視点を変え、シンガポール国内の状況について概観していこう。
中華系に始まりインド人、マレー人、欧米人、日本人……と実にさまざまな人種で構成されるシンガポール。ここはいわば「グローバル社会の縮図」だ。この国でいま起こっている現象や傾向をつぶさに観察していくと、グローバル化が世界的に進んだ先にはどのような社会が待っているのかをある程度見通すことができる。キーワードは「競争」「格差」「分業」、そして「トランスネーション」だ。
「勝ち組はさらに勝ちつづけ、負け組はすぐに退場」
というシビアな環境
ご存じのようにシンガポールは多民族国家です。中華系が7割を占めるのですが、ほかにもインド人、マレー人、欧米人、日本人など実にさまざまな人種がいます。こんな国家なので、世界中の企業が「アジアの登竜門」とばかりにシンガポールに進出してきます。
そんな中で競争するのですから、当然どの産業も競争は熾烈です。
たとえば飲食店。最近、日本からの飲食店の進出が多いのですが、ほとんどの店は赤字かよくてトントンだと思われます。シンガポールには世界中のレストランが集まっており、中途半端な店はあっという間に退場させられてしまいます。
では成功したお店はどうかというと、ビルのテナントがどんどん与えられ、あっという間に郊外にも出店できます。これは、ビルのオーナーが複数の商業施設を所有しており、一度成功するとほかの商業施設にも入ることができるからです。
これはほんの一例ですが、シンガポールでは比較的勝ち負けが早く決まり、負け組はすぐに退場、勝ち組はさらに勝ちつづける傾向にあります。
これと同様の考え方は「人」についても当てはまります。
シンガポールの教育システムは日本のそれとは大きく異なり、小学校低学年でセンター試験のような統一テストがあります。その結果次第で大学へ行ける人とそれ以外の人に分けられてしまうわけです。
日本であれば、東京大学であっても試験を受けるだけなら誰でもできますが、シンガポールでは小学生の時に結果を出していないと大学受験すらできません。
その後、社会に出ても競争は続き、少しでも給料の高い会社に転職すること事が善しとされています。逆にうまくいかない場合はけっこう厳しく、会社は1ヵ月前の通知で簡単に人材を解雇をすることが法的に認められています。
シンガポールは小さな国ですが、このようにあらゆるところで競争がグローバルに行われています。良くも悪くも、勝ち組はとことん勝ち、負け組はとことん負ける社会なのです。