前回のコラムでは、アジア地域において優秀な人材を惹きつけるのに苦労する日系企業の姿、そして海外子会社に突然の転勤を言い渡されたとき、そのポジションに見合った仕事をこなせない日本人は“社内失業”してしまうおそれもある、と指摘していただいた。
今回は、同じようにアジアに続々と進出を果たしている欧米企業に目を転じ、今の日本企業が欧米企業の目にどう映っているのかを探っていく。見えてきたのは、薄れつつある「日本企業でなければならない理由」と、日本企業が持つ優良技術を虎視眈々と狙うアジア企業の旺盛な”食欲”だった――。
日本のお家芸「アニメ制作」の現場も
続々とアジアへ流出
話を日本企業から、欧米企業に移してみましょう。私のいた外資系企業でもそうですが、以前は欧米から見て、アジアでまともな市場は日本程度しかなかったのではないでしょうか。
ところが、経済が成熟し、コストばかりが目につくようになってきているのが、今の欧米企業の日本に対する今の見方ではないでしょうか。
こうなると、合理的発想をする欧米企業は、標準化できる業務はコストの安い他のアジアの国で行おうと考えます。私たちが東欧の国々の細かい違いを理解していないのと同じように、欧米人はアジアの国ごとの違いをほとんど理解していない場合が多いものです。
また、幹部候補の駐在員の場合、自分の駐在期間に大きな実績を残したいと思うので、欧米企業のアジア戦略はけっこう大胆なものが多いです。
例えば、グループ内シェアードサービス。数年前、ある企業では、日本を含むアジアの経理業務をフィリピンでやってみようと企画しました。売掛金、買掛金の管理、給料振込などをフィリピンで行うというものです。当時は、日本語の問題、複雑な社会保険、税金、法律の問題で実現できなかったのですが、最近は、これを見事に実現している会社が出てきています。
例えば、私の知り合いが務めるアメリカ系IT企業では、日本の経理業務をシンガポールで行っており、売掛金の管理等もすべてこちらで行っています。ここで活躍しているのが、現地採用の日本人です。特に女性がたくさん来ており、このような欧米企業のアウトソーシングの受け口として活躍しています。
もうひとつ例を挙げますと、日本のお家芸であるアニメ制作も実は海外にアウトソースされています。
シンガポールという国は非常に戦略的で、今後の伸びが期待される産業を、補助金などをつけて呼び込んでいるのです。当然アニメもターゲットに入っていて、スタジオ家賃補助等を国が行っています。そんななか、今日本で流れているアニメも制作されています。その会社は、日本人は社長と数人のみで、あとはすべて現地人で構成されています。
このように、今の欧米企業の日本に対する見方は「市場としてはかつてほど有望ではなく、特にコストはできるだけかけたくない」というのが本音なのでしょう。その結果、本当に核となる業務を除いては、コストの安いアジアの国で仕事をするようになってきているのです。