サーシャコーチの解任を発表したのは、大坂なおみ自身だ。ツイッターで「もうサーシャとは仕事をしません」と公表した。ツイッターが、大統領のアナウンスメントにも使われる時代だから、多くの人はこれを受け容れたが、本来プロ選手としてはおかしなことだ。

 大坂なおみにはIMGというマネジメント事務所がある。コーチとの契約解除や新たな契約の正式発表は、マネジメントが行うのが通例だ。ところが、大坂なおみは、自分でサーシャの首を切り、それを自ら発表する形をとった。このメンタリティーこそが、いまに至る失速の底流ではないだろうか。

 言うまでもなく、サーシャとの二人三脚で頂点にまで昇り、全米オープンでは優勝賞金380万ドル(約4億2000万円)を稼ぎ、スポンサーとの契約総額は楽に10億円を越えた。1年前と、世間の自分を見る目は一変し、手にする金額は桁違いになった。

 一見、大坂なおみは相変わらずのんびりした性格のようにも見えるが、やはり内面には変化が起こっていたのかもしれない。大坂なおみとサーシャコーチは、上でも下でもない、互いに尊重しあう関係であったはずだが、いつからか、雇う者と雇われる者になった。

 大坂なおみの賞金獲得額が上がれば上がるほど、出来高契約ならサーシャコーチの収入もうなぎのぼりになる。それを「サーシャコーチのおかげで」勝てるようになったと思い続けるか、「私のおかげで、あなたは稼げる」と思うかで両者の関係は大きく変わる。

 謙虚であり続けるのは難しい。だが、謙虚さを失った者の多くは、足下をすくわれる。どこかに隙が生まれ、常勝を呼び込む流れにほころびが生じる。

 解任を聞いたとき、私は「これも1つの転機、いい時期かもしれない」と感じた。いつまでもサーシャコーチとの青春ドラマを続ける必要はない。世界女王として、さらなる次元に突入するには、そのレベルの経験を持つ参謀と組むのはプラスだし必然だ。

 残念ながらサーシャ氏は、ヒッティング・パートナーとして4大トーナメントのファイナルを経験してはいるが、コーチとしてセンターコートの試合は経験していない。ここ数年のテニス界は、かつてのトップ選手がコーチとして戦略的な助言を与え、勝利に導く傾向が主流になりつつある。大坂が、無名だった自分をサポートしてくれたサーシャからいい時期に卒業し、新たな参謀を得ることはテニス界ではある意味当然の選択ともいえる。

 だが、それをするならシーズンオフだっただろう。全豪オープンの直後では、優秀なコーチの大半はすでに新たな契約を結んでいて空きがない。