◆働きすぎなければよかった
◇大切なのはバランス

 もうすぐ90歳になるジョンは、不治の病に侵されている。あるときジョンは、自分が抱えている後悔を著者に吐露し始めた。「働き過ぎたから、今、こうして孤独に死んでいこうとしている。引退してからずっと一人だった。そんな思いをする必要はなかったのに」。

 ジョンと妻のマーガレットは、5人の子どもを育て上げた。全員が成人し、巣立ったところで、マーガレットは、ジョンに仕事を引退してほしいと話した。豊かな引退生活を送るための十分なお金もあったし、何よりもマーガレットは寂しかった。しかし、ジョンは、それから15年間もの間、引退を望むマーガレットを待たせた。ジョンは仕事も仕事上の地位も満喫していたのだ。

 ジョンは妻の寂しさをやっと理解し、引退する決意を伝えたとき、マーガレットは喜びの涙を流した。ところが、それは「1年後に」という条件つきだった。期限まで残り3ヵ月というところで、マーガレットは病気で亡くなってしまう。それ以来、ジョンは罪悪感にさいなまれてきた。

 ジョンは、地位が自分の価値を決めると考えていたため、引退を恐れていた。死を目の前にして、地位や物質的な成功で自分の価値をはかることに意味がないと気づいたのである。より良い暮らしを求めることは悪いことではない。だが、求めすぎると、愛情や好きなことをする時間といった、本当に大事なものから離れてしまう。

 ジョンが著者に遺した言葉はこうだ。「働きすぎるな。バランスを失わないようにすること。仕事だけが人生じゃない」。

◇シンプルに生きること

 患者の命があと一週間になると、患者本人は心の平安を取り戻すことが多い。一方で、その子どもたちは親を亡くす恐怖や、その際にどんなにつらい思いをするかという恐れから、気持ちが張り詰めてしまう。そのせいで子どもたちが感情をコントロールできず、恐怖とパニックに振り回されることはめずらしくない。