米朝ともにスポットライトが分散することを嫌がり、今回は韓国の全面的な協力を仰がなかったことから、報道対応も混乱した。

 そのドタバタぶりは、トランプ氏が板門店の軍事境界線をまたいだ瞬間でも露呈した。北朝鮮区域に入ったトランプ氏に付き添ったのは、女性通訳とサングラスをかけた要員1人が確認できた程度だった。

 この瞬間をみていた自衛隊OBは驚いた。

「過去、訪日した米大統領の歓迎式典で、米側は自衛隊の儀仗(きじょう)銃に実弾が入っているかどうかを確認させろと騒いだことがある。同盟国の日本すらも信じられなかった米国のリーダーが、休戦状態にある北朝鮮に警備もつけずに乗り込むとは」と語る。

 大統領の移動には厳重な警備態勢が敷かれるのが通常だが、南北の境界線を越えるというのに、米側が通常の警備態勢を取るかどうか、北朝鮮と十分な調整をする時間が足りなかったとみられる。

 トランプ氏は高揚感に包まれていたようだ。

 板門店に赴く直前、文在寅韓国大統領と行った共同記者会見では、ホスト国である韓国にお礼の言葉もかけなかった。

「オバマ大統領だったら、金正恩氏は会わなかった」と、自らの力を誇っただけ。今回の訪問が来年の大統領選を有利に運ぶための選挙運動であることを自ら“告白”してしまった。

実務協議の再開を
決めただけの「成果」

 だが板門店での首脳会談は、実務協議の再開で合意するにとどまった。

 金正恩氏は、非核化問題や制裁緩和には一切、言及せず、北朝鮮の体制の保証について何度も念を押したという。

 そして、北朝鮮外務省が実務協議を担当すると説明し、米国務省のビーガン北朝鮮政策特別代表の新たな交渉相手として、具体的な大使の名前も紹介したという。

 現時点では、この人物について、国連代表部公使や駐ベトナム大使を務めた金明吉氏が有力視されている。米側が聞いたことのない新たな人物だったという。