これは今年2月にハノイで行われた第2回米朝首脳会談と同じ展開だ。ハノイ会談は17年12月に、トランプ氏が金正恩氏に送ったクリスマスカードが呼び水だった。

 今回は、6月14日のトランプ氏の誕生日を祝った金正恩氏の親書が契機だった。

 北朝鮮は昨年6月にシンガポールで行われた第1回米朝首脳会談以降、ポンペオ米国務長官やボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)らに対する批判を続けている。

 ポンペオ氏もボルトン氏も、北朝鮮の非核化を強く迫っている。北朝鮮は彼らと実務協議をやれば、核保有が難しくなるとわかっている。

 だから、核やミサイルよりも自分の政治的利益を追求するトランプ氏と直接交渉することを望んでいる。

 その切り札が、トランプ氏と金正恩氏が直接やり取りできる「親書外交」だった。

 今回の親書を巡っては諸説ある。トランプ氏が、金正恩氏からの親書を受けて金氏に宛てた親書については「板門店で会いましょう」といった文句が含まれていたという情報もあれば、「近く会って虚心坦懐に話せればうれしい」といった内容だったという証言もある。

 いずれにしても、北朝鮮メディアは6月23日、トランプ氏の親書について「興味深い立派な内容」と持ち上げる金正恩氏のコメントを、親書を読む正恩氏の姿の写真と一緒に公開した。

 これでトランプ氏は舞い上がった。26日には記者団に「正恩氏とは会わない」と言っていたのに、29日の朝、「DMZ(非武装地帯)で会って、握手してハローと言えるかもしれない」とツイートした。

会談合意はDMZ訪問の前日
大統領選意識し前のめり

 この会談がいかにドタバタしたものだったかは、その後の経緯が証明している。

 北朝鮮から「DMZで会いたいという考えは本当か」という確認の連絡が入ったのは、トランプ氏のツイートから1時間後のことだった。

 米側は、北朝鮮がトランプ氏のツイートを24時間態勢でモニターしている事実は把握していたが、まさか、DMZ訪問を翌日に控えたタイミングで、北朝鮮が会談に同意するとは十分に予想できなかったらしい。

 そこから突貫工事で首脳会談に向けた準備が始まった。