会談について、労働新聞(電子版)は翌7月1日、写真35枚を使って大々的に報道したが、肝心の非核化を巡る表現は、今回も「北朝鮮の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」だった。

 北朝鮮は、米国が北朝鮮を攻撃できる核兵器を全廃しない限り、非核化はしないという立場を崩していない。

 今後の米朝間の実務協議がどうなるかは、まだわからない。協議の再開前から一方的に予測するのは妥当ではないが、トランプ氏との会談だけを狙う北朝鮮の戦略からすれば、実務協議の行方はかなり厳しいと言わざるを得ない。

 北朝鮮の実務担当者が、金正恩氏の判断なしに北朝鮮の非核化に同意するとはとても思えないからだ。

 実際、米紙ニューヨーク・タイムズは最近、米政府が、北朝鮮の完全な非核化ではなく、核の凍結で合意する戦略を検討していると報じた。

 米政府は強く否定しているが、米朝協議の厳しい展開を予想せざるを得ない。

安倍首相の「前提なし」戦略
「政治ショー」に終わる懸念

 これに比べ、日朝首脳会談はまだ希望の余地があるようだ。安倍首相が最も重視する日本人拉致問題は、北朝鮮にとって非核化よりも受け入れやすい問題だからだ。

 北朝鮮の元外交官で、韓国・国家安保戦略研究院の高英煥元副院長によれば、北朝鮮の日本に対する期待は経済支援に集中している。

 北朝鮮内では現在、日朝国交正常化に伴う経済支援について200億ドル(約2兆2000億円)とも220億ドルとも言われる支援を期待する声が上がっているという。

 元労働党幹部は「(日本側が)拉致問題だけの解決を先行させたいなら、北朝鮮は、最低でも1割の20億ドルをまずは要求してくるだろう」と語る。

 これだけの支援をするとなると、国連制裁決議に違反する可能性があるが、安倍氏とトランプ氏の良好な関係を背景に「拉致は人道問題であり、国内政治の問題だ」と、各国に決議の順守を強硬に求めている米国を説得する道はあるだろう。

 現に、トランプ氏は繰り返し、日朝首脳会談を支持する考えを表明している。

 残る問題は、何をもって「拉致問題の解決」と言うかだろう。