幼い頃に受けた身体的虐待やネグレクト(保護の怠慢・拒否)などがもたらすトラウマ(心的外傷)の克服には、チーム競技への参加が役立つようだ。米国医師会雑誌「小児科学」に掲載された報告から。
「逆境的な子供時代の体験(ACE)」は、生涯に亘り心身の健康に影響することが知られている。研究者らは、米国の青年~成人期の健康を長期間追跡した「AddHealth研究」から、第1期(1994~95年)の登録者のうち、小児期にACEを経験した約1万人分のデータを抽出。第1期のスポーツ経験と2008年時点での精神症状との関連を調べた。
第1期登録時の平均年齢は15.2歳で、日本の中学~高校生に当たる。男女比は1:1で、08年調査時は24~32歳だった。
登録時、うつ病の診断歴を持つ人の比率は、ACE経験者が2.4%、非経験者は1.2%と経験者が有意に高かった。一方、不安障害については有意に差が認められなかった(0.9%対0.5%)。
一方、第4期のACE経験者のうつ病診断歴の比率は19.1%(非経験者13.2%)と有意に高く、うつ症状の比率は24.0%(同14.5%)だった。
スポーツ経験との関係では、思春期にチーム競技、例えば野球やサッカーなどに参加した人のうつ病診断率は16.8%で、非参加者の22.0%より有意に低いことが認められた。不安障害やうつ症状でも同じ傾向が示されている。
ただし、男女別に分析した結果、男性はチーム競技に参加することで、うつ病、うつ症状、および不安障害のリスクが有意に低下した一方、女性では不安障害のみで効果が認められた。
研究者は、自尊心の強化や、チームに認められ、参加しているという意識がレジリエンス(回復力)の育成に役立つとし、「ACE経験がある子供はチーム競技に参加することで、成人後のメンタルヘルスを改善する可能性がある」としている。
一般化に慎重さは必要だが、被虐待児を見守る手段として、地域のスポーツ少年団への参加などが一つの選択肢になるかもしれない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)