イタリアでの反緊縮政策は民意
整合性に欠ける財政赤字への批判
欧州委員会は7月3日、財政赤字が過剰であることを理由としたイタリアへの制裁を見送った。欧州委員会は5月7日に、イタリアの2019年の財政赤字が対GDP比2.4%と、2018年末に合意した2.04%を上回り、EUのルールを逸脱する可能性があるとの予想を発表していた。これに対しイタリア政府は、歳入見通しの引き上げなどで再び財政赤字を2.04%に削減する措置を発表したため、欧州委員会もいったんは引き下がる格好となった。
イタリア政府は10月15日までに、欧州委員会に2020年の予算案を提出する予定だ。経済財政政策を統括するモスコビシ欧州委員は、「2020年の財政政策が健全なものになるという真剣な確証を求めている」と述べ、イタリアの財政赤字拡大を牽制しているが、イタリアのサルビーニ副首相は、「減税こそが国民にとっての主要課題」と述べるなど強硬姿勢を崩しておらず、夏から秋にかけて問題が再燃する可能性が高い。
右派「同盟」と左派「五つ星運動」で構成されるイタリアの連立政権は、欧州委員会が求める付加価値増税を拒否し、法人税、所得税それぞれの大幅減税とベーシックインカムの導入を主張し、ポピュリスト政権と呼ばれている。
しかし両党は、2018年3月の総選挙で大勝しただけでなく、2019年5月に実施された欧州議会選挙でも同盟が首位の34.3%、五つ星運動も17.1%の票を獲得した。もはや反緊縮政策は、イタリアにおいてポピュリズムではなく、民主主義の下での民意の反映といえる。
一方、前述のモスコビシ欧州委員の母国であるフランスは、炭素増税に反対するトラック運転手が引き起こした黄色いベスト運動の影響で、2019年の財政赤字は3.2%とイタリアの当初予想の2.4%を大きく上回るどころか、EUが定める3%の財政赤字上限をも超える見込みだ。モスコビシ欧州委員は「フランスとイタリアの状況は違い過ぎる」と問題視しない姿勢だが、フランスがお咎めなしの一方で、それより赤字の小さいイタリアが制裁まで議論されている状況に、整合性を見い出すのは難しい。