ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が話題の山口周氏。山口氏が「アート」「美意識」に続く、新時代を生き抜くキーコンセプトをまとめたのが、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
これまで、多くのコンサル会社が超一流のリサーチャーを雇って未来予測を行い、その結果、取り返しのつかない悲劇が生まれていることはあまり知られていない。未来予測に頼り、それに振り回される人こそオールドタイプの典型だ。ニュータイプは、進化するテクノロジーや環境変化を逆にチャンスに変えられる人材である。
未来予測はなぜ重要な局面で外れるのか。なぜ予測は原理的に不可能なのか。切り替わった時代をしなやかに生き抜くために、「オールドタイプ」から「ニュータイプ」の思考・行動様式へのシフトを説く同書から、一部抜粋して特別公開する。

【オールドタイプ】未来を「予測」する
【ニュータイプ】未来を「構想」する

今の風景は誰かの意思決定の集積である

(2008年の世界金融危機の最中、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを訪れて)
これほど大規模な経済危機を、なぜ誰一人として予測できなかったのですか?(*1)
――エリザベス女王

 昨今のビジネス現場においては「予測=未来はどうなるか」という論点が議論されるばかりで、より重要な「構想=未来をどうしたいか」という論点はないがしろにされがちです。

 ここではこの問題、すなわち「予測と構想」の問題について考察してみましょう。まず以下の図5と図6を見てください。

 これは、コンピューターサイエンティストのアラン・ケイ(*2)が、1972年に発表した論文「A personal Computer for Children of All ages」の中で、「ダイナブック」というコンセプトを説明するために用いたイメージ図です(*3)。

 この事実を知った多くの人は、おそらく「すごい、今から半世紀も前にタブレット端末の登場を予測していたのか!」と思うでしょう。しかし、それは完全に誤った解釈です。

 アラン・ケイは未来を予測してこれを描いたわけではありません。そうではなく「こういうものがあったら素晴らしい」と考えた上で、そのイメージを具体化し、多くの人に働きかけたということです。つまり、アラン・ケイがやったのは「予測」ではなく「構想」だということです。

 コンサルティング会社やシンクタンクには、よくクライアントから「未来予測」に関する相談が来ます。未来がどうなるか? その未来に対してどんな準備をするべきか? ということを検討してほしいという依頼ですが、個人的には実にナンセンスだと思っています(*4)。

 これだけVUCAな世界になってなお、他人に将来を予測してもらって受験勉強よろしく「傾向と対策」を考えようなどというのは、まさに浅知恵と言うべき典型的なオールドタイプのパラダイムと言えます。

 一方で、ニュータイプは予測ではなく、構想します。「未来がどうなるのか?」ではなく「未来をどうしたいか?」を考えるのがニュータイプだということです。

 今、私たちが暮らしている世界は偶然の積み重ねでこのようにでき上がっているわけではありません。どこかで誰かが行った意思決定の集積によって今の世界の風景は描かれているのです。

 それと同じように、未来の世界の景色は、今この瞬間から未来までのあいだに行われる人々の営みによって決定されることになります。

 であれば本当に考えなければいけないのは、「未来はどうなるのか?」という問題ではなく「未来をどうしたいのか?」という問題であるべきでしょう。

 20世紀後半に活躍した芸術家のヨーゼフ・ボイスは「社会彫刻」という概念を提唱し、あらゆる人々は、自分の美的感性と創造性をもって世界の形成に寄与するアーティストであるべきだと主張しました。もし私たちが、私たち自身のビジョンによって世界の形成に寄与するのだとすれば、大勢の人が関わっている予測などというものになんの意味があるのでしょうか。

 繰り返しましょう。現在のように複雑で不透明なVUCAな世界にあって、予測の上に自分の身の振り方を考えようなどというのはオールドタイプのパラダイムでしかありません。ニュータイプは未来を構想し、構想した未来の実現のために意見を口にし、行動を起こすのです。

(注)
*1 この女王からの質問に対して、その場で答えられなかった経済学者たちはその後、女王への回答ということで書簡をまとめている。いろいろと書いてあるが、理由は要するに「油断していた」ということらしい。
https://economistsview.typepad.com/economistsview/2009/07/why-had-nobody-noticed-that-the-credit-crunch-was-on-its-way.html
*2 アメリカの計算機科学者、教育者、ジャズ演奏家。パーソナルコンピューターの父、と言われることもある。オブジェクト指向プログラミングとユーザインタフェース設計の開発に大きな功績を残した。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という名言でも知られる。
*3 http://www.vpri.org/pdf/hc_pers_comp_for_children.pdf
*4 付言すれば、筆者の20年にわたるコンサルティング業界での経験から、コンサルティング会社に未来予測を依頼してくる会社は、大体その後でどこかと合併するか、急速に業績を低下させることが多いと感じている。