「新しい攻撃があった。まだ一般には知られていないけどね。今度は銀行、証券会社など金融機関。それに機関投資家、個人の資産家がターゲット。明らかに金融パニックを狙ったものよ。それも世界中のね」
理沙は森嶋に身体を近づけ、声を潜めるように言った。
「富士山噴火についての最新情報が送られてきたのよ」
「冗談でしょ」
「そうあってほしいわよ。でも、全世界に配信されてるの。地震によって、ほぼ100パーセントの確率で富士山の噴火が誘発されるって論文が」
たしかに最近、富士山噴火の情報が飛び交っている。前に噴火があってから300年以上も噴火は起こっていない。すでに地下では、溜まりきったマグマが出口を求めて押し寄せているという話は何度も聞いた。
「最近マスコミが騒いでるでしょ。宝永、貞観の大噴火からシミュレーションしたCG画像付きでね。溶岩流が富士五湖を飲み込んで山梨県の都市部に到達する。火山灰は房総半島まで広がって、東京では灰が十センチも降り積もって、都市機能は完全に麻痺する。もちろん、羽田や成田空港は封鎖。新幹線もストップ。東名なんかも高速道路もね。東京は陸の孤島になる。それが数ヵ月続くっていうの」
理沙は深いため息をついた。
「それって発表するんですか」
「金融機関に流れたってことは、ネットに流出するのは時間の問題なの。時間差もすべて計算して流してるのよ。今だって知らないのはお偉いエリート官僚と、一般の国民だけじゃないの」
理沙はイライラした口調と表情で言った。そしてさらに続けた。
「明日、インターナショナル・リンクが会見を開くそうよ。いよいよ、日本崩壊も秒読みに入ったってわけね」
理沙が疲れた声を出した。ここ数日走り回っていた疲れが溜まっているのだ。おそらく彼女は、ほとんど寝ていない。
「また格付けを下げるつもりですか。先日、3段階も下げたばかりなのに」
「仕方ないでしょ。ここ数日で、日本を取り巻く状況が大きく変わったんだから。政府は何ひとつ対策を打ててない。とどめは今日のインターネットでの書き込みね」
「信じてるんですか」
「私は信じてないけど、外国人の80パーセントは信じてる。インターナショナル・リンクの一部のアナリストもね。無知による無責任な行為が一国を滅ぼすって本当なのね。残念で悲しいことだけど」