森嶋は理沙の言葉が理解出来た。一般のヨーロッパ人、アメリカ人の大部分にとって、日本はいぜんとしてアジアの片隅にある東洋の神秘の小国なのだ。その神秘の小国が経済的に成功して、様々な電気製品を世界に送り出した程度のことしか知らない。地図上で日本の位置を正しく示すことの出来るアメリカ人が半分もいないと聞いて驚いたことがある。そして、この事実を知らない日本人も多い。

 その東洋の片隅にある小国をかつて、自分たちには想像も出来ない地震が襲い、津波が押し寄せた。その結果、2万人に近い人が犠牲になった。TSUNAMIはずっと昔からすでに国際共通語だ。

 そして今度は、同じような地震が東京を襲い、火山が噴火しようとしている。インターネットの書き込みをなんの疑問もなく受け入れることが出来るのだ。

「これ以上下げられると市場が動揺します」

「動揺なんてものじゃない。リーマンショックとギリシャ危機が同時に来たより十倍もショッキング。今度は国と国債に加えて、日本の大手銀行三行、京菱銀行、きぼうフィナンシャルグループ、東友銀行についても新しい評価を下すわ。そうなると致命的でしょうね」

「理沙さんは、現在ネット上で騒がれている地震騒動はデマだと分かってますよね」

 森嶋は確認するように聞いた。

「インターナショナル・リンクの連中も全員がバカというわけじゃない。トップに近い者はネットの情報がいい加減なものだってくらいは知っている。でも、彼らは心理学者、社会学者も加えて、独自の情報で動いてるのよ。だから市場が騙されて暴走することも考慮に入れている。すべての状況を考慮した上での評価なのよ」

 理沙は軽く息を吐いた。

「レミングという動物を知ってるわよね」

「たしかネズミに似た小動物です」

 理沙は森嶋を見つめている。森嶋の身体に冷たいものが走った。

(つづく)

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は、毎週(月)(水)(金)に掲載いたします。