化粧品大手ポーラ・オルビスホールディングス(以下、HD)が、経営基盤を揺るがしかねない遺産騒動に見舞われている。
HDの鈴木郷史(さとし)社長を相手取り、2000年に急死した叔父(2代目社長の鈴木常司〈つねし〉氏)の妻千壽(ちず)氏が「鈴木社長所有のHD株式約4191万株(提訴時の時価総額で約2200億円)などが本来は遺産相続対象だった」と主張し、東京地裁で1年余り係争中なのだ。
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泥沼ポーラ遺産騒動
騒動の発端は、HDの現役の取締役(当時。以後は「元ナンバー2」と表記)が17年12月に行った内部告発。故常司氏は戦後の大富豪の一人に数えられるほど巨万の富を築いたが、元ナンバー2は約20年前の遺産相続に関連し、「鈴木社長がグループ有力会社株の譲渡契約書を死後に捏造し、本来遺産だった約69万株(その後の上場でHD約4191万株に転換)を1株1円で不正に入手。その不正を起点にグループ支配を優位に進めた」という疑惑を暴露した。
その後元ナンバー2は、神奈川・箱根のポーラ美術館を運営するポーラ美術振興財団(理事長=鈴木社長)所蔵の美術品839点(評価額計約28億円)に関しても、「約20年前に同様の不正があった」と告発した。
元ナンバー2は捏造疑惑当時の秘書室長であり、経営上層部に近い立場にあった。一定の信ぴょう性はあるものの、にわかには信じられない衝撃の告発である。
現在、鈴木社長は両疑惑を全面的に否定している。元ナンバー2は告発を内々に収めることと引き換えに鈴木社長へ退任を迫ったが、逆に17年末の取締役会で鈴木社長の反撃に遭い、18年3月の定時株主総会をもって正式に会社から追放された。
だが元ナンバー2は黙って引き下がったわけではなかった。17年12月にあった、「捏造の事実を前提とした発言に終始していた」(原告主張)とされる鈴木社長の発言を、ひそかに録音していたのである。
元ナンバー2の告発を知った千壽氏は18年5月に提訴した。現在、東京地裁で2件の“巨額”遺産相続対象確認訴訟が並行して審理中だ。2件のうちポーラ美術館の美術品に関する訴訟の進行が速く、9月9日に鈴木社長、元ナンバー2らの証人尋問というヤマ場を迎える。
千壽氏の訴えが全面的に認められれば、HD大株主第2位が鈴木社長から「反社長派」の千壽氏に変わるなどし、HDの現経営体制は崩壊する可能性が高い。
舞台は東証1部上場の大手化粧品会社。登場人物は現役社長や元取締役らで、「社長vs元ナンバー2」「創業家内のおいっ子vs叔父の妻」「かつての上司vs部下」など人間模様が複雑に絡み合う。二手に分かれてそれぞれの正義を主張するが、真実は一つ。前代未聞のお家騒動は、まさにミステリー小説のような展開で、どちらが勝訴しても “事実は小説よりも奇なり”だ。
ダイヤモンド編集部は総力を挙げて取材し、ポーラ遺産騒動の深層に迫った。
スクープ1
鈴木社長が告発されて以降の音声データ3本全てを独自入手
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17年12月の元ナンバー2による内部告発には仲介者がおり、本編集部は「仲介者―鈴木社長」の2回の会談、「元ナンバー2―鈴木社長」の会談、計3回の全ての音声データ(計3時間53分)を独自に入手した。疑惑を突き付け退任を迫る元ナンバー2らと鈴木社長の間で、実に生々しいやりとりが繰り広げられていた。果たして読者は「捏造があった証拠」(原告主張)とみるか、「事実無根だが鈴木社長は話を合わせて聞き置いた」(被告主張)とみるか。詳細を再現する。