“世界一厄介な課題”と言われる「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」に挑む日本人起業家がいる。アストロスケール創業者兼CEO、岡田光信さんだ。2013年、資金も人脈も技術もない40歳が始めた「無謀な挑戦」は、たった6年で150億円を超える資金を調達して独自技術と世界初のビジネスモデルを構築し、さらに2020年の半ばにはスペースデブリ除去実証衛星の打上げも控えている。そんな“宇宙起業家”が自身の思考の原則を初めて明かした『愚直に、考え抜く。』から、反響の大きかったノウハウをご紹介する。今回は、宇宙に進出する際に3か月で300本の論文を読んだという岡田さんの効率的学習法を明らかにする。

圧倒的な成果を出すための効率的学習法「2倍未満の法則」

限られた時間で基礎知識を身につける最強の方法

 まったく知識がゼロの課題にぶつかるとき、基礎情報を手に入れるための学習時間が必要な場合がある。私の場合、人工衛星の知識や、宇宙物理学の知識はゼロから勉強せざるを得なかった。

 どんな人でも、完璧な知識があるわけではない。「あるべき姿」にたどり着くには、技術、営業、資金、組織、法律……。いろんな基礎知識を持っていなければいけない。課題の解決法を考える際に判断ができないからだ。

 その基礎知識を手に入れるために、「学習時間」が必要である。どんな知識でも最低限のことがわかっていると、判断ができるようになる。たとえば、ある分野の法規制がひとつ変化するとしよう。他の分野である、営業、技術開発、財務にどう影響が出るか即座に判断できる。

 他方で、人の時間は有限だ。

 そこで、「2倍未満の法則」をお伝えしたい。これは、私が何かを学ぶ際に、必ず使ってきた法則で、かれこれ高校時代から30年間使っている。

 高校時代に、問題集を次々に買って片っ端から完璧に理解して全国模試で1位になったのも、わずか6か月の勉強で国家公務員試験Ⅰ種の法律職に上位合格し大蔵省に入ったのも、技術知識ゼロの状態からスペースデブリ除去衛星の設計の仮説を1年で考えたのも(その後大幅に変更しているが)、この2倍未満の法則を使ったからこそできたといえる。

 具体的な理屈はこうだ。ひとつの参考書は、4回やると決めていた。1回目にかかった時間を1とする。2回目はわからなかった場所だけやればよいので、かかる時間は1/2になる。3回目を1/4、4回目を1/8の時間でやると、1+1/2+1/4+1/8=1.875となる。もし5回目を1/16の時間でやっても、1.875+1/16=1.9375となり、必ず1回目の2倍以下の時間となる。

 つまり、物事を完全にマスターするのに、最初にやった時間の2倍はかからない、ということになる。

 これは面白いほど当てはまるもので、憲法や民法を初見から学ぶのも、最初に全体を読み込むのに3か月かかったとすると、合計6か月もやれば全条覚えられたし、判例もほぼほぼ頭に入っていた。法律の知識を使いこなすことはできないが、理解することはできるようになった。宇宙技術も、300本の論文を最初に3か月で読み込み、その3か月後には、宇宙エンジニアが何を話しているか理解できるようになった。

 金融や財務・経理がわからなくて、本当は学んでいたほうがいいと思っている人は、この「2倍未満の法則」を使ってほしい。経理、財務、ファイナンス、税務、M&A、上場、IR……といった金融の知識を学ぶのは、最初は大変だろう。でも、最初に一通り読むのに2か月かかったのなら、全部を理解するのは合計4か月でできてしまう。

 この法則を知っておくだけで、新しい物事を学習するのにひるむことも、恐れることもなくなるだろう。それがたとえ宇宙物理学であっても、だ。