ナポレオンの即位は「ベンチャーの裏切り」か? 組織拡大の“意外な正解”
【悩んだら歴史に相談せよ】好評を博した『リーダーは日本史に学べ』(ダイヤモンド社)の著者で、歴史に精通した経営コンサルタントが、今度は舞台を世界へと広げた。新刊『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)では、チャーチル、ナポレオン、ガンディー、孔明、ダ・ヴィンチなど、世界史に名を刻む35人の言葉を手がかりに、現代のビジネスリーダーが身につけるべき「決断力」「洞察力」「育成力」「人間力」「健康力」と5つの力を磨く方法を解説。監修は、世界史研究の第一人者である東京大学・羽田 正名誉教授。最新の「グローバル・ヒストリー」の視点を踏まえ、従来の枠にとらわれないリーダー像を提示する。どのエピソードも数分で読める構成ながら、「正論が通じない相手への対応法」「部下の才能を見抜き、育てる術」「孤立したときに持つべき覚悟」など、現場で直面する課題に直結する解決策が満載。まるで歴史上の偉人たちが直接語りかけてくるかのような実用性と説得力にあふれた“リーダーのための知恵の宝庫”だ。
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絶頂期のナポレオンが選んだ
「一族支配」という統治モデル
革命の寵児が選んだ「覇道」への転身
疲弊した民衆が渇望した「強き光」
1804年、ナポレオンは、フランスの初代皇帝に即位しました。かつて「自由・平等・博愛」を掲げたフランス革命の英雄が、自らを皇帝とする体制を選んだことは、一見革命理念への裏切りに映るかもしれません。
しかし、王政を打倒した革命の混乱は、国民生活を長く不安定にしました。そうしたなかで、ナポレオンがもたらした「秩序・安定・繁栄」への期待が、彼の皇帝即位を正当化したともいえるのです。
欧州地図を塗り替える破竹の快進撃
皇帝となったナポレオンは、その勢力を次から次へと拡大していきます。
オーストリア・ロシアの連合軍を撃破し、ヨーロッパにフランスの軍事的優位を印象づける。
・1806年:神聖ローマ帝国の解体
約840年続いた帝国を終焉させ、新たに「ライン同盟」を設立。ドイツ諸邦をフランスの衛星国とする。
・1807年:ティルジット条約
ロシア・プロイセンに勝利し、ポーランドに「ワルシャワ公国」を創設。ここも実質フランスの支配下となる。
こうして、ロシアとイギリスを除くほぼすべてのヨーロッパ大陸を掌握するに至ったのです。
【解説】理想を「実装」するための現実的なピボット
ナポレオンの皇帝即位は、一見すると革命への裏切りに見えます。しかしビジネスの視点で見れば、これは「創業期のカオス(革命)」から「安定成長期(帝国)」へのモードチェンジと捉えることができます。
崇高な理念(ビジョン)だけでは、組織や社会は回りません。疲弊した現場が求めていたのは、抽象的なスローガンではなく、明日を生き抜くための具体的な「秩序」と「成果」でした。
彼は、理想を現実社会に「実装」するために、あえて皇帝という強権的なシステムを採用したのです。これは、ベンチャー企業が規模拡大に伴い、ガバナンスを強化して組織化を図るプロセスに重なります。
「ゲームチェンジ」をもたらす圧倒的なスピード
また、彼の快進撃を支えたのは、旧来の権威(神聖ローマ帝国など)を破壊し、自らに有利なルール(ライン同盟など)を敷く「ルールメイキング」の力です。既存の国際秩序という市場環境を、圧倒的なスピードと軍事力(=技術力・組織力)で書き換えました。
800年以上続いた伝統さえも効率のために解体するその姿勢は、既存業界を破壊的イノベーションで刷新する現代の「ゲームチェンジャー」そのものです。
成功の影に潜む「持続可能性」の課題
しかし、ここで私たちは立ち止まって考える必要があります。「強き光」であるナポレオンという個人のカリスマ性に過度に依存したシステムは、果たして持続可能なのでしょうか?
欧州をほぼ手中に収めたこの瞬間こそが、組織が「トップの独走」を許容し、イエスマンばかりを生んでしまう危険な分岐点でもありました。
短期的な「覇道」による成功を、いかにして長期的な「王道」の繁栄へと繋げていくか。ナポレオンの歴史は、私たちに成功の絶頂期における自制と、次なるビジョンの重要性を問いかけているのです。
※本稿は『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。















