米国の労働者のうち米国以外で生まれた者の比率(2018年)
米国大統領選挙が近づくにつれて、トランプ政権による反移民政策はさらに先鋭化していくだろう。中でも経済成長という点では、移民の制限は米国にとってマイナスである。
米国の労働者のうち海外生まれの比率は2018年時点で17.4%に上る。日本の外国人就労者の比率(2%程度)よりかなり高い上、2000年時点の13.3%から一段と上昇している。
移民依存度の高まりは生産年齢(15~64歳)人口の動きからも確認できる。1975年から85年にかけて生産年齢人口の増加は殆ど米国生まれの両親に生まれたベビーブーマー世代によるものだった。しかし、95年から05年にかけては生産年齢人口の増加の半分は移民によって賄われるようになった。今後は米国生まれの両親から生まれた生産年齢人口は減少に転じ、移民頼みの構図がより鮮明になる。
移民が経済成長にもたらす効果についてはプラスというのが経済学の常識となっている。放っておけば労働力人口が減ってしまう現状を考えると、むしろ移民がいないと成長率を維持できないというべき状況だ。
弊社の経済モデルを用いて労働力減少の影響をシミュレーションすると、50万人の減少で米国の成長率が0.1%ポイント低下する計算となる。50万人の減少というのは移民政策の変更で簡単に実現するものだ。例えば、トランプ政権は不法移民の国外強制送還の人数を昨年度の29万人から50万人に増やすとしている。
合法的な移民についても制限が加えられる可能性が大きい。米国のシンクタンクの調査によると、米国に居住する海外生まれの人口4400万人のうち約4分の3が合法的な移民である。この比率をそのまま適用すると、米国の労働者の約12%、約2100万人が合法的な移民と推計される。仮にこれを5%制限すれば100万人の労働力の減少となり、成長率を0.2%ポイントも押し下げてしまう。
トランプ政権の保護主義的な貿易政策は既に米国経済にもダメージを与え始めているが、今後の移民政策の先鋭化がこれを一段と下押ししないか懸念される。
(オックスフォード・エコノミクス在日代表 長井滋人)