――筆者のウォルター・ラッセル・ミードは「グローバルビュー」欄担当コラムニスト
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ワシントンで起きているドラマによって忘れがちになるが、米国の現政権で最も重要な外交政策の動きは、大統領が発信するツイートではない。それは、米国の国際政治戦略の中心を大西洋および地中海から、米外交・軍事当局者が言うところの「インド太平洋」に移すことだ。オバマ前政権が「アジアへのピボット(旋回)」と呼んだこのシフトは、時間がかかるが避けることはできない。そして、共和党または民主党、安全保障のタカ派またはハト派のいずれの専売特許でもない。
インド太平洋の重要性について米国民の意見がまとまりつつあるとしても、われわれがその戦略でまとまっているとはとても言い難い。これは一つには、型破りな考え方の大統領が率いる行政府に原因がある。大統領は過去数十年にわたって米国の外交政策を形作ってきた専門家や機関としょっちゅう対立する。しかし、その裏ではトランプ大統領よりも大きな力が働いている。
人類史上、現在のインド太平洋ほど、雪崩のような政治経済の変化に多くの人や国家が直面したケースはない。そうした状況を理解して対応するのが困難だとしても、それは米国の外交政策立案者に限った話ではない。中国の習近平国家主席やインドのナレンドラ・モディ首相、日本の安倍晋三首相の周辺もたびたび当惑する状況に追い込まれている。
別の問題もある。米国が冷戦時代に培った外交術や思考習慣、さらにその後の一極体制の考え方は、インド太平洋には当てはまらないことが多い。中国との力の均衡を目的としたインド太平洋連合を結成すれば、第二次世界大戦後にソ連の共産主義を封じ込めた大西洋同盟とはかなり違うものになるはずだ。