混乱深まる
韓国の政治・経済

 今回の文氏の意思決定が、韓国社会に与えるマグニチュードは決して小さくないだろう。チョ氏の強行任命を受けて、韓国の世論は従来以上にまとまりを欠き、割れてしまっている。それに追い打ちをかけるように、輸出の減少など、韓国経済の基礎的条件=ファンダメンタルズが急速に悪化している。

 その背景には多くの要因がある。外部要因として、韓国最大の輸出先である中国経済が減速していることがある。それに加えて、米中の貿易摩擦により世界のサプライチェーンが混乱している。韓国産業通商資源省は輸出減少に関して、わが国の対韓輸出管理見直しの影響は限定的である一方、米中の貿易摩擦の影響が大きいとしている。

 国内では、文大統領が無理やりに最低賃金を大幅に引き上げたことで、雇用・所得環境が悪化してしまった。左派政権の下、韓国で労働争議が激化するなどし、企業経営に下押し圧力がかかる展開も軽視できない。日韓関係の悪化、労使問題などから韓国から撤退する日本企業もある。

 本来、文氏は冷静にこの状況に向き合わなければならない。具体的には、規制の緩和などを行い、経営資源が先端分野に再配分されやすい状況を目指すことが大切だ。長い目で見ると、そうした取り組みが、富が公平に再配分される環境を整え、市民の不満解消につながるだろう。

 しかし、文氏は、“保革分断”といわれるように利害対立を激化させている。わが国が輸出制度を見直したことを受けてサムスン電子などのトップは、政府との協議よりも訪日を優先した。文氏は企業経営者からの信頼も失ったといえる。また、韓国では海外投資家の株式保有比率が高い。政治の不安定感が高まると、海外の投資家はリスク削減から株を売り、急速に資金が海外に流出する恐れもある。

 文大統領が多様な利害を調整し、国を一つにまとめることは難しくなっている。

 リーマンショック後の日本が経験したように、政治が混乱すると、市場参加者が長期の視点で経済の展開を考え、リスクをとることは難しくなる。それは、経済の成長に必要なアニマルスピリットの醸成を阻害する。その状況が続くと、経済は低迷し、社会全体で不満が蓄積されてしまうだろう。