『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、大学受験にもつながる子どもにおすすめの「たった一つの経験」について解説します。
Photo: Adobe Stock
子どものうちにやっておいた方がいいこと
近年、大学入試の世界では、明らかな変化が起きています。
一般入試だけで合否が決まる時代は終わりつつあり、推薦入試や総合型選抜といった「年内入試」で進学先が決まる生徒が、すでに全体の半数を超えるようになりました。大学側も、「点数が高いかどうか」だけではなく、「その子が何に興味を持ち、どんな経験をしてきたのか」「将来をどう描いているのか」を重視するようになっています。
こうした流れの中で、親御さんから聞かれる質問も、少しずつ変わってきました。
「どの塾に行かせればいいですか?」
「どの参考書がいいですか?」
といった質問に加えて、最近とても多いのが、こんな問いです。
「子どものうちに、これはやっておいた方がいいと思うことはありますか?」
勉強だけをさせていればいい時代ではなくなった。成績以外の部分も、将来の進路に関係してくる。そんな空気を、親御さん自身が感じ取っているからこそ、出てくる質問なのだと思います。
その問いに対して、私はよくこう答えます。
キッザニアに行くことです。
なぜキッザニアなのか?
その理由はシンプルです。子どもは、「大人がどんなふうに働いているのか」を、驚くほど知らないからです。
少し昔を思い出してみてください。八百屋さんは八百屋の格好をしていました。魚屋さんは魚屋の格好をしていて、床屋さんは床屋としてそこにいました。子どもから見ても、「この人は何をしている大人なのか」が、服装や場所から自然と伝わってきた時代でした。
ところが、今はどうでしょうか。電車に乗っている大人は、ほとんどがスーツ姿です。パソコンを開いている人もいれば、スマホを見ている人もいる。でも、その人が何の仕事をしているのかは、見た目からはまったく分かりません。
その結果、最近の子どもたちは、「大人が何をして生きているのか」を具体的にイメージできなくなっています。極端な話、自分の親がどんな仕事をしているのか、よく分かっていないという子も、実は珍しくありません。
「会社に行ってる」「パソコンで仕事してる」そこから先が、見えないのです。
これは、将来を考える上で、意外と大きな問題です。なぜなら、子どもは「知っている世界」からしか、夢や目標を描けないからです。
勉強が何につながるのかのイメージを持つ
そんな中で、仕事を“体験”として知る機会は、とても貴重です。キッザニアの良いところは、単に遊ぶだけではなく、「働くとはどういうことか」を、子ども目線で体感できる点にあります。制服を着て、役割を与えられ、誰かのために動く。その対価としてお金をもらう。こうした一連の流れを、頭ではなく体で理解できるのです。
「仕事って大変そうだけど、ちょっと面白そう」
「人の役に立つって、こういう感じなんだ」
そんな感覚を持てるだけでも、子どもにとっては大きな一歩です。
勉強ももちろん大切ですが、その前に、「この勉強は、将来どこにつながるのか」というイメージを持てるかどうかで、学びへの向き合い方は大きく変わります。
仕事を体験することで、「なぜ勉強するのか」が、少し現実味を帯びてくる。これは、ドリルを何冊やるよりも、ずっと価値のある経験になることがあります。
子どもが将来のことを考えられないのは、怠けているからでも、考える力が足りないからでもありません。単純に、「知らない」だけです。だからこそ、大人の側が、世界を見せてあげる必要があります。
ということで、もし「子どものうちに、何か一つだけ経験させるとしたら?」と聞かれたら、私は迷わず言います。
仕事を体験させてあげてください。
それは将来、進路を考えるときにも、勉強に向き合うときにも、確実に子どもの中で生きてきます。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)




