辻谷 今の加工の主流っていうのはNC旋盤なんですよ。僕も砲丸づくりがうまくいかない時に、NCで作らないといけないのかなあ思って、友人の会社2軒に100個ずつ頼んでみたんです。確かにNCですから、まぁ見た目はとてもきれいにできます。ところが、目方をはかったらなんと70%以上が不良品だったんですね。

 なんでそうなるかと調べたら、鋳物っていうのは非常に複雑な材質なんですよ。鋳物の5元素といって、鉄のほかシリコン、カーボン、マンガン、リン、硫黄と、最低でもこの5つが入っている。それは、それぞれみんな密度違いますよね。ですから鋳物が固まるまでどうしても軽い物質は上に浮かび、重たい物質は下に沈む。ですから、出来上がった品物の右側と左側でも目方が違う。それを手で持って感じとりながら、砲丸を作り始めたんです。

 実際には、5元素どころじゃないんですよ。日本は資源のない国ですから、鋳物の素材である銑鉄(新しい鉄)は40%で、廃品回収業者が集めたくず鉄を45%、それから我々のような工場から出てくる種々雑多な切れっぱしを混ぜて使うので、5元素のほかに7元素、8元素、いったいこの材質なんだっていうくらい複雑なものが溶かされているんです。ですからマニュアルどおり作ったって、NCでつくたってまったく同じものはできない、ということがわかるまでに、2年半くらいかかりましたかね。

 それから勘でやりました、しょうがないから。勘で削り始めたところ3ヵ月も経たないうちに100個、200個ときちんとした完成品ができるようになっちゃった。完璧にできたのが1986年、ソウル・オリンピックの2年前です。

ソウルでの惨敗を生かし
新たな砲丸を開発

オリンピックで使われる砲丸は、選手のマイボールではなく、世界各国から選ばれた5~6ヵ国のメーカーの製品を競技場に並べ、選手はその中から使う砲丸を選ぶ。辻谷の砲丸は、1988年のソウル・オリンピックで初めて採用されたものの、誰一人として選ばなかった。他の国のメーカーの砲丸は、赤や黄色にきれいに塗られていたが、辻谷のそれは削った鉄色のままだった。