この現実から今後の米中攻防の展開を推測すると、中国側が「経済利益のために香港問題で米国に妥協する可能性」は「香港問題のために経済利益で米国に妥協する可能性」よりもずっと低いことが分かる。そしてそれは、経済貿易関係・交渉で中国から妥協を引き出し、来たる選挙で再選するための材料にしたいトランプ大統領の処遇とかなりの割合で一致するといえる。

 繰り返すが、同大統領に自由、人権、法治、民主主義、そしてこれらの制度や価値観に基づいた国際秩序を守り、推し進めていくという認識は乏しい。そんな同大統領が、まさにこれらの価値観を守るために闘ってきた香港市民に寄り添うことで、経済的な利益や果実を犠牲にするとはなかなか想定できない。

 もちろん、「2019年香港人権・民主主義」法案が成立する可能性は十分にある。この先、選挙があるが故に不確定要素が流動的になる中で、トランプ大統領自身が香港問題を議題として重視する可能性も十分にある。ナンシー・ペロシ下院議員やマルコ・ルビオ上院議員のように、香港問題を重視し、中国に対して厳しい態度を取る政治家も米国内にはいる。「反中」・「対中強硬」は米国の首都ワシントンD.C.の政策界における一つの主流にもなっている。自由を守り、民主主義を勝ち取りたい香港市民としては、トランプ大統領の去就を含め不確定要素が存在するからこそ、米国に最後の望みを託そうとしているのかもしれない。

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建国70周年が近いが
香港安定は望めない

 香港情勢はどこへ向かっていくのだろうか。

 一つの時間軸は10月1日、すなわち中華人民共和国建国70周年記念であろう。中国共産党はこの日を円満に迎えるべく、国内で言論統制や世論操作、人権活動家やウイグル族などへの監視を徹底し、絶対的政治安全を確保すべく奔走している。できることならば、この日までに香港情勢が沈静化することを望んでいたであろう。

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 ただそれは現実的ではないようだ。

 先週末も香港は荒れた。9月21日(土)、午後2時、新界エリア、香港の北西端に位置する「屯門」の公園に到着した。そこでは平和的集会・デモが行われていた。数千人に及ぶ、黒服を身にまとった参加者たちは、星条旗を掲げながら「トランプ大統領、香港を解放してください」と訴えていた。「時代革命、光復香港」という一連の抗議活動における核心的なスローガンを叫び続けた。

 公園から屯門駅に向かって平和的行進が続いたが、その後、それは警察との「武力衝突」へと変わった。最近の週末は、午後から夕方、夜にかけてこの流れがパターン化している。抗議デモが大規模化することを防ぐために、香港鉄道(MTR)はまたしても同駅を封鎖した。自らの欲求に応えようとしない香港政府、抗議者を暴力によって抑えようとする香港警察に協力しているとして、抗議者やデモ隊はMTRを抗議や攻撃の対象としている。

 そこに警察が待ち構えていた。デモ隊が警察の姿を見つけるやいなや、罵詈雑言を浴びせ始め、警察は催涙弾を使った。武器を持って抗議者を追いかけ、一部を取り押さえた。デモ隊が放火する。燃え上がる炎を境に、抗議者と警察は向かい合った。

 市民の警察に対する不信と嫌悪はもはや決定的である。和解の切り口は見いだせない。出口は見えてこない。

 しばらくすると、消防隊員がやって来て、火は消えた。何事もなかったかのように人々は去り、そこには焦げたゴミ箱やガードレールだけが残された。

(国際コラムニスト 加藤嘉一)