だが、わずか2週間後の3月21日に開発最終段階(臨床第3相試験)だったアデュカヌマブについて開発中止を発表。すると数日間で株価は約3割下落した。冒頭のエレンべセスタットはアデュカヌマブ以来の開発中止第2弾。開発ステージで先行していた2剤がこけ、残るは1剤のみとなった。患者サイドから落胆の声が聞こえる一方、一部業界関係者からは、「さもありなん」と冷めた声が聞こえる。

 というのも、世界を見渡せば、米ファイザー、スイス・ロシュ、スイス・ノバルティスなど、エーザイより遥かに研究開発予算が多いメガファーマ(巨大製薬会社)で、次世代アルツハイマー型認知症治療薬の開発中止が相次いでいるからだ。世界初のアルツハイマー型認知症治療薬アリセプトを上市し、この分野の先駆者であるエーザイに期待は大きいが、開発の難易度は高いのだ。

 エーザイにとって一筋の光明は自社創製のがん治療薬「レンビマ」の存在だ。18年に米メルクとがん領域で提携したことでレンビマの大型製品化が見込まれており、既に足元の業績上向きに貢献している。ただ、エーザイの“顔”はやはりアルツハイマー型認知症治療薬。上市できれば超大型製品になることは目に見えているだけに、レンビマの貢献が霞んで見える。

相次ぐ開発中止の余波でトップ交代時期も後ろ倒しか

 冒頭のニュースリリースの末尾には、「BAN2401の開発には影響を与えません」と、わざわざ追記があった。アルツハイマー型認知症患者や投資家に対し、動揺が走らぬよう意図したものとみられる。

 現在開発最終段階のBAN2401が上市までたどり着いたとしても、それは22年以降の見込みだ。またエーザイはこれまで述べた3剤とは別のアルツハイマー型認知症治療薬の開発計画も明らかにしているが、これらは臨床試験(治験)入り前で未知数。事実上、BAN2401の製品化可否にエーザイの輝かしい未来が掛かっている。

 今春、次世代アルツハイマー型認知症治療薬の開発リスクを問われた内藤CEOは、「リスクに満ちている」と認める一方、「コミットするから薬屋」と、新薬メーカーの矜持を持ったコメントを発した。内藤CEOの強気な姿勢に、世界の患者が期待している。

 内藤CEOは現在71歳。エーザイの経営トップに就いて30年余りが経過した。トップ交代の観測はかねてからあり、次期候補の下馬評には執行役の長男景介氏や常務執行役である娘婿アイヴァン・チャン氏の名前が挙がっている。

 だが次世代アルツハイマー型認知症治療薬の道筋が見えぬ間は、並々ならぬ執念を燃やす内藤CEOが次世代に席を譲ることはなさそうだ。