認知症の治療は非常に困難である。現在、承認されている認知症治療薬は、いずれも病気の進行を抑制する程度のものであり、劇的な回復が期待できるものではない。ところが、薬ではなく、思わぬ技術を用いた、新たな治療法が注目されている。それは東北大学の下川宏明教授率いるチームが研究を進めている“超音波”を使う治療法だ。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
検査だけではない
超音波のすごい力を利用
「認知症の特効薬はあと10年以内にできますよ」――。
20年ほど前、世界的な研究者から教えられ、一日千秋の思いで待ちわびてきたが、今に至るまであらわれていない。薬で進んだのは、種類が増えて、「飲み薬が苦手な人は、貼り薬が使える」程度に選択肢が広がったことぐらいだろうか。
実際、フランスは昨年8月、代表的な治療薬4種類を、「有用性が不十分」という理由で医療保険の適用から外してしまった。「進行を抑制する(遅れさせる)」という効果が分かりにくい割に、下痢やめまい、吐き気などの副作用が起きやすいことが理由だ。
これら4種類の薬剤の日本での保険適用は継続されているが、患者やその家族、将来の発症の不安を抱えている方々にとっては「やっぱり、発症したら打つ手なし」と宣告されてしまったようで、がっくりするニュースだったのではないだろうか。
ところが思わぬ技術を用いる、新たな治療法が注目されている。その開発を進めているのは、東北大学の下川宏明教授率いる研究チームだ。
それは薬ではなく、“超音波”を使う治療法で、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の両方を治せる可能性があるという(認知症にはアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型の4種類があり、アルツハイマー型が6割、脳血管性が2~3割で、患者の大半を占める)。