ipad

 アップルが9月10日のイベントで発表した新製品をおさらいすると、iPhone 11、iPhone 11 Pro、iPhone 11 Pro Max、Apple Watch Series 5、iPad(第7世代)でした。この中で最も価格が安いのは、実は10.2インチと最も大きなディスプレイを備えるiPad。モバイルそしてウェアラブルは、小ささが価値になることをよく表しています。

 確かにiPhoneは、特に日本や米国といった先進国では4割の販売シェアを維持しており、買う人も買わない人も注目する対象と言えます。しかし今回在庫が圧倒的に枯渇しているのはどうやらApple Watchのようで、新たに登場したチタンケースのモデルは、クリスマスまでに手に入るか微妙な情勢になってきました。

 そしてもう一つ、また大きな販売が見込めそうなのが、iPadです。

●低価格モデルが売れてきたiPad

 iPadは2010年に9.7インチで登場し、iPhoneと同様のOSを搭載してiPhoneユーザーとiPhone向けアプリ開発者を取り込むことに成功したタブレット製品です。2014年第1四半期には3ヶ月で2600万台以上を販売しますが、その後3年間の低迷にあえいでいました。

 その一方で、ラインアップの中で最も販売が多かったのが、価格が安いモデル。2017年初頭の段階では既にiPad Proが登場していましたが、ラインアップに残されていた9.7インチモデルのiPad Air 2が手に入らない状況に陥っていました。

 1月と言えば4月からの新学期に備えるための機材購入の最終タイミング。しかしその前の年の12月から、iPad Air 2を発注しても、納入は3月中ギリギリか4月になるほど枯渇していた状況でした。

 2017年に登場したのが第5世代iPad。定価329ドル、学生・教職員向けには299ドルの価格で登場し、学校や企業向けの大量導入の需要に応え、また導入するコストを更に抑えることができるようにする一手でした。こうしてiPadの販売は戻りはじめ、2019年第3四半期には8.3%の成長を記録するまでになりました。

 2017年に無印の「iPad」という製品名が復活しましたが、デバイスとしては第5世代・第6世代と続けてiPad Airのボディをそのまま用いていました。しかしApple Pencilには対応させ、iPadとペンシルの組み合わせが標準体験であることをアピールしてきたのです。

●第7世代はキーボードの幅にあわせたサイズ感

 9月10日のイベントで登場したiPadは、それまでの9.7インチサイズから10.2インチへと拡大しました。端末としては、現行モデルの10.5インチiPad Airと同じ250.6mm × 174.1mmでサイズは同じです。しかしディスプレイサイズはiPadの方が0.3インチ小さく、厚さは7.5mmと1.4mmも厚く、重さは27gも重たくなっています。

 上位モデルのiPad Airとの差別化を持たせつつもデバイスのサイズを一致させたのは、iPad Pro 10.5インチが登場した際に作られたカバーのように着脱できるSmart Keyboardをそのまま流用できるようにするためです。

 第7世代iPadは引き続きApple Pencilに対応しますが、新たにSmartConnectorを搭載し、SmartKeyboardに対応します。しかし最も価格が安いiPad向けに新たにキーボードを作るコストを考えれば、iPad本体のサイズを拡大させ、既存製品のアクセサリを使えるようにした方が良いじゃないか、ということで、今回の新サイズはキーボードの幅に合わせるためだった、と言っても良さそうです。

●iPadOSのインパクトは大きい

 2019年6月のWWDCで、アップルはiPadOSを発表し、iPhone向けとiPad向けでのOSの分離を図りました。しかしいずれもバージョンナンバーが13であることからわかるとおり、ブランドでは分かれましたが、実際には同じOSと捉えて良いでしょう。それでも、iPad向けにOSが用意されたことは、iPadがスマートフォンの延長や、タブレットとしてではなくコンピュータとして独自に進化していくというアップルのメッセージを伝えるには十分なインパクトと言えます。

 そうしたメッセージだけのインパクトにはとどまりません。正直なところ、iPadOSのプレビュー版を試し始めたこの3ヵ月でMacBook Proを家から持ち出したことは一度もなくなりました。10日間の米国への旅行、先日の9月10日のスペシャルイベント取材であっても、iPad Pro1台だけであらゆる仕事を済ませることができました。

 筆者の場合、取材メモを作り、原稿のアイディアをまとめ、原稿を書いて、写真の取り込み・整理・仕上げ、ビデオ編集、Podcast録音、ブログ更新、オンラインの会計システムへアクセス、バナー画像作成、ブログの編集ページにアクセス、あたりまでが日常的にやっている作業です。

 数ヵ月にわたるプロジェクトの場合はMacの方が良い面もありますが、日々の仕事を効率的にする場合、iPadは遜色ないばかりか、特にメディアを扱う作業は高速化されるほどです。

 iPadOS 13の登場で大きいのは、やはり外部メモリの読み込みと、Macでアクセスするのと度同じ振る舞いを見せるウェブブラウザーSafariです。これで写真以外の音声や文書ファイルをメモリカードやUSBメモリから読み込めるようになりましたし、ブログ編集や会計システムにiPadのブラウザからアクセス出来るようになりました。

●破壊的なのは価格

 確かにiPadOSはこれまでのiPadでできることを更に拡張してくれるパワフルさを、iPadにもたらしてくれます。その破壊力は、個人的には非常に大きく、アップルが言うほとんどの場面で取り出すコンピュータをiPadに転換できるという論には納得できます。

 しかしそのiPadが10万円ではなく、日本でも税抜き3万4800円で実現した点が、最も大きなインパクトになるのではないでしょうか。3万円台のノートパソコンでPhotoshopを動かしたり、4Kビデオ編集をしようとは思わないかもしれません。しかしiPadではかなり快適なレベルで実現できます。

 カジュアルな利用の中では最も負荷のかかりそうな仕事をこなせるコンピュータの価格をぐっと引き下げることに成功したiPadは、そろそろタブレットとしてではなく、コンピュータとしての評価をするべきタイミングにさしかかってきているのではないでしょうか。


matsu

筆者紹介――松村太郎

  1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura