中国で、「千と千尋の神隠し」が公開され大ヒットしている。昨年12月にも「となりのトトロ」が公開され、興行収入は約30億円に達したという。それらがヒットした理由と、巨大マーケット・中国と日本映画界の展望について映画批評家の前田有一氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)

ヒットの裏に
「政府間協定」あり

中国で上映されている「千と千尋の神かくし」中国では、いまになってジブリ作品がヒットしている Photo:EPA/JIJI

 現在、中国国内で宮崎駿監督のアニメ映画『千と千尋の神隠し』がヒット中だ。今年6月に中国全土の約9000ヵ所で公開された同作は、日本円で72億円の興行収入を上げている。また、昨年12月には『となりのトトロ』も公開され、興行収入は28億円を記録。なぜ今になってジブリ作品がヒットしているのだろうか。

「中国人は歴史ものを非常に好みます。ですから、古風な雰囲気のある『千と千尋』はウケるのです。また、中国のアニメファンにとって日本のアニメは特別。特に宮崎駿にはコアなファンがいます。かつて中国国内で配信されていたアニメの9割は日本のものでした。ここ最近、その割合は半分くらいになりましたが、今回のジブリのヒットは、いまだに日本のアニメが人気だという証しでしょう」

 ジブリ作品が年月を経てから公開された理由は、さまざまな分析がされている。中国国内のスクリーン数の頭打ちを受けて新たなコンテンツを求め、中国でも人気の高いジブリ作品を公開したという見方もある。以前は海賊版でしか見られなかった中国のファンが、ジブリ作品を劇場に見に行ったというのだ。一方、前田氏は違う見方を提示する。

「昨年5月に『日本国政府と中華人民共和国政府との間の映画共同製作協定(日中映画共同製作協定)』が締結されました。中国国内では上映される外国映画の本数は制限されていますが、この協定を結ぶと、日中で合作した映画は、外国映画のカテゴリーから外れ、中国国内での上映がしやすくなるのです。いまやスクリーン数は世界一とも呼ばれる中国市場に、日本映画が進出しやすくなったということです」

 この協定が結ばれたことで、日中合作ではないものも、中国政府からの上映許可が下りやすくなったのではないかと前田氏は推測する。ちなみに日本は先進21ヵ国の中で、この協定を結んだのは最も遅い。