現在、全世界の糖尿病患者は2億5000万人。しかも毎年、700万人(10秒に1人)が新たに糖尿病を発症、このままでいくと2025年には患者数が3億8000万人を超えると予想されている。

 糖尿病は慢性の高血糖が主症状で「砂糖漬け」の細胞、組織が糖の毒でぐずぐずになる状態。残念ながら絶対的な治療手段は見当たらず、早期から厳格に血糖をコントロールするしかない。

 ただこの「厳格」が過ぎると、人為的な低血糖を「空腹」と勘違いした脳が「食べろ!」と指令を出し、糖尿病には鬼門の肥満を助長。血糖はなかなか下がらず、しかも重症低血糖が頻発すると死亡リスクが跳ね上がる。かといって野放図にコントロールするのでは、糖毒に曝された神経や血管が壊れ、視力や手足を失いかねない。糖尿病の治療は実に微妙なバランスの上に成り立っている。

 ここ数年は新規糖尿病治療薬の当たり年。前述の矛盾を克服すべく、全く新しい作用メカニズムの新薬が次々に登場してきた。中でも食べたものの刺激で小腸から分泌される血糖調節ホルモン「インクレチン」関連の薬は、インスリンの分泌を促し、さらに大本の膵β細胞を増殖させる作用がある。何より、血糖値が高いときだけ働く効率のよさで低血糖リスクと肥満リスクを回避する画期的な薬剤だ。ただし、他の糖尿病治療薬と併用すると相乗効果で重い低血糖が生じる。使い方には十分な注意が必要。膵β細胞の機能が残っている患者向きで、国内では経口剤と1日1~2回の自己注射剤が使える。

 先行している米国では、1月に週1回投与型の注射剤が最も重大な「黒枠警告」付きで承認された。動物実験で甲状腺がんリスクが指摘されたためで、長期的な安全性が気になるところ。日本では今年から来年にかけて複数の持続作用型注射剤が承認されそうだ。

 次に期待されるのが尿糖排泄促進薬。尿細管の糖を再吸収する機能を抑え、余分な糖をおしっことして排泄させる薬だ。「尿検査で糖が!」と一喜一憂する身としては疑問符だらけだが、慢性高血糖状態で糖の再吸収が有害なのは当然といえば当然。こちらも2、3年のうちに登場予定だ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド