会議では「みんなで決める」が最悪の方法なワケPhoto: Adobe Stock

スティーブ・ジョブズと、グーグル元会長兼CEOのエリック・シュミット、グーグル共同創業者のラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、そのほかツイッターやヤフー、ユーチューブのCEOまでが「共通の師」に師事していたというと驚かれるだろうか。
その師の名は、ビル・キャンベル。アメフトのコーチ出身でありながら有能なプロ経営者であり、「ザ・コーチ」としてシリコンバレーで知らぬ者のない存在となった伝説的人物だ。
そのビルが亡くなったことをきっかけに、このままではその教えが永久に失われてしまうと危機意識を抱いたのが、15年以上にわたってビルに教えを受けてきたシュミットら、世界的ベストセラー『How Google Works』の著者トリオだ。
シュミットらは、自分たちの体験に加え、ビルの薫陶を受けた100人近くもの人物に、ビルの「成功の教え」について取材を敢行、ついに完成したのが『1兆ドルコーチ──シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著、櫻井祐子訳)だ。
同書は現役のグーグルCEO(スンダー・ピチャイ)とアップルCEO(ティム・クック)が並んで賛辞を寄せる異例の1冊となり、発売早々ニューヨークタイムズ・ベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーとなり、世界21か国での発売が決まっている。
このたび日本版が刊行されたことを記念して、同書から特別に一部を公開したい。ビル・キャンベルはミーティングでの採決を嫌い、「コンセンサスはクソくらえだ」と公言してはばからなかったという。その理由と、ではどうすべきかがよくわかるエピソードだ。

意見がぶつかったときはどうする?

 エリックはグーグルでの任期が終わりにさしかかったころ、幹部にありがちな問題に直面した。縄張り争いだ。

 あるマネジャーが、自分のチームが担当するプロダクトのユーザー向けにモバイルアプリを開発しようとしたが、別のマネジャーが、それは自分のチームが開発すべきものだと主張した。数週間経ってもらちがあかず、最初は和やかだった話し合いもピリピリした空気になっていった。

 エリックはチームがむずかしい決断を迫られたときは、いつも「二頭体制」と名づけた方法を採った。決定に最も深く関わる二人にさらに情報を集めさせ、二人で協力して最適なソリューションを考えさせるのだ。

 二人はたいてい、1、2週間後に「こうしたらいいと思う」という方針を決めて戻ってきた。そしてチームはほぼ必ず、二人の決定に従った。それが最善の策だということは、多くの場合、一目瞭然だったからだ。

 二頭体制は最適解をもたらすだけでなく、同僚意識を高めるというメリットもある。問題に対処する二人に解決方法を決める権限を与えるのだが、これは仲裁を成功させるための鉄則である。また対立を解決するために協力する習慣ができれば、その後も長いあいだにわたって連帯感を高める効果があり、意思決定によい影響をおよぼす。

 ところが、このときはそうならなかった。二人の幹部は一歩も譲らなかった。エリックがビルにアドバイスを求めると、彼はこう返した。「『二人で決めろ、さもなければ私が決める』と言うんだ」

 エリックは助言に従い、二人で決定するために1週間の猶予を与えた。彼らは合意に至らず、最後にエリックが介入して決定を下した。