マネジャーは「決着」をつけよ

 最適解が生まれない場合、マネジャーは決定を促すか、みずから決定を下さなくてはならない。

「マネジャーの仕事は議論に決着をつけることと、部下をよりよい人間にすることだ」とビルは言った。

「『この方針で行くぞ。くだらん議論はおしまいだ。以上』と宣言するんだ」

 ビルはこのことを苦い経験から学んだ。アップルの幹部時代、決定を長引かせてしまい、事業に悪影響がおよぶという、正反対の状況に陥ったのだ。

「アップルはそのせいで低迷した。こっちの部門が何かをやり、あっちの部門がちがうことをやり、誰かがまた別のことをやりたがる。早く決断してくれと部下に迫られたが、私の担当はセールスとマーケティングで、Apple IIとマッキントッシュのプロダクトグループの議論に決着をつけられなかった。まさに泥沼で、何も進まなかった。あれは本当に堪えた」

 決定を下さないのは、誤った決定を下すよりたちが悪いかもしれない。

 ビジネスでは決定が下されないことがしょっちゅうある。そこには完璧な正解など存在しないからだ。

 だが、まちがっていてもいいから、とにかく行動を起こせ、とビルは教えた。決定を導くための適切なプロセスがあることは、決定そのものと同じくらい重要だ。そうしたプロセスがあれば、チームは自信を持って前進し続けることができる。

 アドビシステムズの元で、ビルとクラリスで一緒に働いたブルース・チゼンは、これを「誠実な意思決定」と呼ぶ。すぐれたプロセスに従い、個人ではなく会社のためになることをつねに優先させて決定を下す、ということだ。自分たちにできる最善の決定を下し、前へ進め。

 そして、リーダーはいったん重大な決定を下したら、それに全力で取り組み、ほかの全員にもそうするよう求めなくてはならない。オンライン学習プラットフォーム、チェグのダン・ローゼンスワイグは、前にこんな状況に陥った。重要な財務戦略についてCFO(最高財務責任者)と合意したのに、CFOはささいな問題を理由に、合意を取り消すと言ってきたのだ。ダンはビルに電話をかけて相談した。どうしたらいいのか?

 ビルはCEO時代に似たような状況を経験したときのことを話した。ビルと経営陣はある戦略について合意したが、いざビルが取締役会でその戦略を発表すると、計画を受け入れていたはずのCFOが、ビルには賛成できないと言い放った。会議のあとビルは、もう戻ってくるなと言った。たとえ決定に不満があっても、合意したことには全力で取り組まなくてはならない。それができないなら、チームの一員じゃない。

 これはブラッド・スミスがビルの後任としてインテュイットに就任した際にビルから教わった、「アーサー王の円卓」型の意思決定モデルだ(ブラッドはこの話をしながら、オフィスの片隅に飾られた、「円卓の騎士」のミニチュア模型を見せてくれた)。

 しっかり議論をすれば、10回のうち8回は、部下が自力で最適解にたどりつくだろう。だが残りの2回は君が苦渋の決断を下し、全員が従ってくれることを期待するしかない。

 円卓には上座がないが、その背後には玉座がなくてはならない。

(本原稿は、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著『1兆ドルコーチ──シリコバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』〈櫻井祐子訳〉からの抜粋です)