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スティーブ・ジョブズと、グーグル元会長兼CEOのエリック・シュミット、グーグル共同創業者のラリー&セルゲイ、そのほかツイッターやヤフー、ユーチューブのCEOまでが「共通の師」に師事していたというと驚かれるだろうか。
その師の名は、ビル・キャンベル。アメフトのコーチ出身でありながら有能なプロ経営者であり、「ザ・コーチ」としてシリコンバレーで知らぬ者のない存在となった伝説的人物だ。
そのビルが亡くなったことをきっかけに、エリック・シュミットらがビルの「成功の教え」について書いたのが『1兆ドルコーチ──シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著、櫻井祐子訳)だ。
同書は現役のグーグルCEO(スンダー・ピチャイ)とアップルCEO(ティム・クック)が並んで賛辞を寄せる異例の1冊となり、発売早々ニューヨークタイムズ・ベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーとなり、世界21か国での発売が決まっている。
このたび日本版が刊行されたことを記念して、ペンシルベニア大学ウォートンスクール教授で世界的ベストセラー『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』著者のアダム・グラントが同書に寄せた序文を公開したい。

人を輝かせることに徹した大物

 いまから10年近く前に、シリコンバレーの最大の秘密に関する記事を「フォーチュン」誌で読んだ。

 秘密といっても、ハードウェアやソフトウェアのことではない。プロダクトでさえない。人間だ。名前はビル・キャンベル。ハッカーではない。アメリカンフットボールのコーチから転身して、セールスの仕事をするようになった人物だ。

 なのに彼は、毎週日曜にスティーブ・ジョブズと散歩に行き、グーグル創業者たちに「彼がいなければ成功できなかった」と言わしめるほどの影響力を持つようになったという。

 その名には聞き覚えがあったが、どこで聞いたのかは忘れていた。だが考えるうちに思い出した。私が何度か教えたことのあるケーススタディに出てきたのだ。

 それは1980年代にアップルが直面した経営上のジレンマを取り上げたもので、ドナ・ドゥビンスキーという聡明な若いマネジャーが、スティーブ・ジョブズの立てた流通計画に反対したというエピソードだった。

 ビル・キャンベルはドナの上司の上司で、いかにも元フットボールコーチらしい、愛のムチの助言を彼女に与えた。そしてドナの提案書を破り捨て、もっと強力な代案を考えろとハッパをかけ、全力で彼女を支援したという。

 しかしそれ以来、彼のうわさを聞いたことがなく、彼のその後数十年間のキャリアは謎に包まれていた。

 その理由を知る手がかりが、「フォーチュン」の記事にあった。ビルは人を輝かせることを喜び、自身は黒子に徹していたのだ。当時、「人を助けてこそ成功できる」という主旨の本を書いていた私は、ビルのような人を取り上げられたらどんなにすばらしいだろうと思った。だが、世間の注目から身を遠ざけている人を、どうしたら紹介できるだろう?