香港情勢が混乱から抜け出せずにいる。警察と市民の間の衝突は収まる気配はない。中国政治、米中関係の動向、そして香港の国際金融センター、アジアのビジネスハブとしての信用・地位を守るという意味でも、先行きが懸念される。昨今の混乱を招いた根本的な原因はどこにあるのか。香港はどこへ向かっていくのか。前編に続き、香港で生まれ育ち、米英で教育を受けた気鋭の国際関係学者、オピニオン・リーダーである瀋旭暉(Simon Shen)氏へのインタビュー後編をお届けする。インタビューは2019年10月21日、香港大学内で行われた。(聞き手/国際コラムニスト 加藤嘉一)
注目されるのは2047年問題
キーワードはやはり「自由」
習近平政権発足以来、中国共産党は対内的には抑圧的、対外的には拡張的な政策をあからさまに取るようになり、それが香港政策にも反映されている。「社会主義中国」の台頭、拡張、浸透を逃れられる場所は、香港はおろか、米国や日本を含め、この地球上にないようにすら感じられる。
香港の昨今の混乱から若干時間軸や空間軸を広げると、注目されるのはやはり「2047年問題」だ。これから28年間、香港では何が起こっていくのか。不断に「一国化」が進むのか。揺り戻しはあるのか。2047年の時点で香港が名実ともに社会主義化するのか。
筆者は、香港市民が守り、求める生活様式は変わらないと考えている。キーワードはやはり「自由」。香港市民であってもその人の出自によっては、「利益」のために「自由」を犠牲にすることをためらわない人々も少なくない。経済的果実を与えることで政治的権益を確保するやり方は、昨今、中国共産党が全世界で展開しているものであり、香港はまさにその「総本山」の1つと言える。
しかしながら、経済的果実に目がくらんだ人々も、香港が社会主義化することを受け入れるのだろうか。英国植民地時代から長年自由な生活様式を享受してきた香港市民が、昨今の中国本土の人民のように、安定や発展のためには自由や人権を犠牲にすることを強いられる日々に我慢ができるのだろうか。
過去の4ヵ月間、私は抗議デモの現場で、計約200名の香港市民に自由と安定、民主と繁栄の関係について話を聞いてきた。回答したほぼ全員が「自由あっての安定」「民主主義あっての繁栄」と主張していた。
一方、中国本土ではまさに真逆だ。安定と繁栄のためには、自由や民主主義は犠牲にすべきだというのが中国共産党の方針であり、中国人民はそれを理解し、受け入れているように筆者には映る。もちろん、例外もいるだろうが極少数だ。
そう考えると、最大の不確定要素は香港市民の欲求ではなく、中国共産党の動向だと想定される。2047年まで、中国共産党は平穏に存在し、また執政し続けることが可能なのか。俗に言うところの「崩壊」は起きないのか。仮にそれが起きれば、中国共産党の香港政策にも直接的な影響が及ぶ。
そんな問題意識のもと、瀋旭暉(Simon Shen)氏へインタビューを敢行した。