習近平は党・軍・政府内で
相当な圧力を受けている
「習近平は米国との貿易戦争と香港問題で相当な圧力に見舞われ、共産党の最高指導者としての威厳が失われるのを恐れている」
建国70周年記念に当たる国慶節(10月1日)の翌日、中国政府内で香港問題を担当する幹部が香港で筆者にこう語った。
この2つの問題が習近平の足を引っ張り、結果的に改革事業が遅延してしまうこと、その過程で習近平が党や政府、軍内における対内保守派や対外強硬派から圧力を受けること、それでも習近平にはこの2つの問題を可能な限り穏便に処理せざるを得ない事情があることの3点を、同幹部は指摘した。
国際政治が中国の民主化を邪魔している――。
筆者は本連載「中国民主化研究」を執筆する過程で、現段階でこのような見解を持つに至っている。中国の民主化を促す上で、「外圧」という要素は非常に重要であり、米国や日本、そして台湾や香港が健全な圧力を中国にかけ続けることで、中国の民主化が促される局面が望ましいと思い描いてきた。
しかしながら、現状はそうはならず、展望も楽観視できない。むしろ、対外関係が改革の阻害要因になっている。依然として出口の見えない米国の貿易戦争や香港問題で、国際社会が中国に要求を迫れば迫るほど、中国はますます対内的には抑圧的に、対外的には強硬的になっていく。
中国の台頭をめぐる悪循環であるが、筆者も前出幹部の見方に賛同し、昨今の情勢下で改革は遅延するだろう。政治改革だけでなく、経済改革を含めてだ。そして、習近平が党・軍・政府内で相当な圧力を受けていると推察している。
「トランプ政権は通商交渉の過程で中国の主権や尊厳を重んじず、“不平等条約”を結ぼうとしている。香港の抗議者やデモ隊は、中国の国旗を燃やし、国章に泥を塗るなど、御国を侮辱しながら、独立をもくろんでいる。そんな国家や人間に理解を示し、妥協をする必要など毛頭ない。強硬的に出て、徹底的に戦うべきだ」
このような認識や主張を持つ党・政府・軍の関係者は多く、しかも増えている。「百年の屈辱」を胸に、ますます対外ナショナリズムを強める中国人民もそれを支持しているのが現状のように映る。
ただ一方で、習近平にはそれらの主張や世論に寄り添いつつもくみせず、対米関係と香港問題をある程度穏便に処理すること、そのためにある程度自制的にならなければならない事情がある。本稿ではその事情について議論していきたい。