7つのコツ【3つ目】

能作:はい。3つ目に、
「他人の考えを否定しない(自分の考えに固執しない)」
 ことも大切です。
 自分の常識にとらわれず、素直に「他人の意見」に耳を傾ける。
 自分の常識では考えられないことでも否定しない
「自分とは違う意見」を受け入れる素直さや謙虚さから、新しいアイデアは生まれます。

 僕は、「お客様の声」を聞いてみたくて、自社製品の開発に取り組みました。
 ですから、ユーザーの一番近くにいるショップ店員さんの意見や、展示会にきてくださる方々の声を商品開発に反映させています。
 アイデアを形にする場合、どう意見するかよりも、「人の意見を受け入れられるか」のほうが何倍も重要です。

――言われてみれば、確かにそうですね。

能作:はい。たくさんの人から話を聞いて、それぞれのよいところを吸収して進んで行くほうが、早く正しい結果にたどり着けるはずです。
 自身の経験や知識だけで物事を図ろうとすると、考え方が偏ってしまいます。多角的に物事を解釈するためには、「自分が正しい」という思いを捨て、他人の意見に耳を貸すことが大切です。

――これがなかなかできません。でも大事ですよね。

能作:たとえば、「立山のぐい呑」(日本3名山の一つ、富山県の立山連峰をモチーフにした錫100%のぐい呑)をつくったとき、社員から「富士山に似ている」という声が上がったので、「富士山 FUJIYAMA」(ぐい呑)を思いつきました。

――それはいいアイデアですね。

能作:その直後に富士山が世界遺産に登録され、注文が殺到。嬉しい誤算だったのは、日本には社名に「富士」のつく会社が多く、贈答需要が増えたことです。

――運がいい!

能作:すると、メディアが立山と富士山を括って、「山岳シリーズ」と表現したので、それに便乗し(笑)、鹿児島の桜島(御岳)をモチーフにしたタンブラーをつくったわけです。

――ナイスアイデア!

能作:僕は、周囲の意見を柔軟に取り入れながら、お客様に喜んでいただける商品開発をしていきたいと思っています。
 僕ら職人は、どうしても視野が狭くなりがちです。
 ですから一番大事なのは、一歩引いて俯瞰して眺めること。
 そのためにも、他人の意見を尊重する。すると、今まで見えなかったものが見えてくるようになります。

――とはいうものの、なかなかできません。少しでも引いて見るようにします。

能作:ありがとうございます。
 年間12万人が訪れる富山の本社工場の雰囲気を知りたい方は、第1回連載もご覧いただけたらと思います。

地方発ヒット商品の神アイデアが舞い降りてくる「7つ」のルール能作克治(のうさく・かつじ) 株式会社能作 代表取締役社長
1958年、福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。大手新聞社のカメラマンを経て1984年、能作入社。未知なる鋳物現場で18年働く。2002年、株式会社能作代表取締役社長に就任。世界初の「錫100%」の鋳物製造を開始。2017年、13億円の売上のときに16億円を投資し本社屋を新設。2019年、年間12万人の見学者を記録。社長就任時と比較し、社員15倍、見学者数300倍、売上10倍、8年連続10%成長を、営業部なし、社員教育なしで達成。地域と共存共栄しながら利益を上げ続ける仕組みが話題となり、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)など各種メディアで話題となる。これまで見たことがない世界初の錫100%の「曲がる食器」など、能作ならではの斬新な商品群が、大手百貨店や各界のデザイナーなどからも高く評価される。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、第1回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ、日本鋳造工学会 第1回Castings of the Yearなどを受賞。2016年、藍綬褒章受章。日本橋三越、パレスホテル東京、松屋銀座、コレド室町テラス、ジェイアール 名古屋タカシマヤ、阪急うめだ、大丸心斎橋、大丸神戸、福岡三越、博多阪急、マリエとやま、富山大和などに直営店(2019年9月現在)。1916年創業、従業員160名、国内13・海外3店舗(ニューヨーク、台湾、バンコク)。2019年9月、東京・日本橋に本社を除くと初の路面店(コレド室町テラス店、23坪)がオープン。新社屋は、日本サインデザイン大賞(経済産業大臣賞)、日本インテリアデザイナー協会AWARD大賞、Lighting Design Awards 2019 Workplace Project of the Year(イギリス)、DSA日本空間デザイン賞 銀賞(一般社団法人日本空間デザイン協会)、JCDデザインアワードBEST100(一般社団法人日本商環境デザイン協会)など数々のデザイン賞を受賞。デザイン業界からも注目を集めている。本書が初の著書。
【能作ホームページ】 www.nousaku.co.jp