期間限定レストラン期間限定レストランで働くサウジ人ウエートレス(リヤド) Photo:Yaroslav Trofimov/The Wall Street Journal

 サウジアラビアの首都リヤド。ステージ前はぶつかり合いながら踊る群衆で埋め尽くされていた。ジャマイカのラッパー、ショーン・ポールが歌うのに合わせ、若い男女がiPhone(アイフォーン)をかざして体を揺らしながら口ずさんだ。「君の体に恋してる・・・シーツからその香りがする」

 白いTシャツ姿で緑の国旗をスカーフのように首に巻いたサウジ人の若者が、隣で踊っていた観光客の女性とハイファイブをした。「ようこそ、新たなサウジアラビアへ!」。欧州から来たこの女性は、全身を覆う伝統服のアバヤを着ていなかった。

 王位を継承するサウド家は政治的な締め付けを強めているが、社会の自由化は加速させている。イスラム教発祥の地であり禁欲的なサウジ王国で、日常生活の多くの面に開放感がもたらされている。

 わずか2年前まで、ポップミュージックのコンサートはなかった。ましてや、女性が髪を隠すことなく、群衆の中で男性と踊れるイベントなどあり得なかった。サウジ人女性は運転を禁じられ、レストランやホテルのフロントデスク、空港入管局で働くことも許されなかった。オンラインの査証(ビザ)発給が先月開始されるまで、欧米の観光客もいなかった。

 サウジ諮問評議会のホダ・アブドゥルラフマン・アルヘライシ議員はこうした変化について、「これほど広く早く進むとは思ってもみなかった」と語る。

 言うまでもなく、新生サウジは闇に包まれた一面も持つ。反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏は昨年、トルコの首都イスタンブールのサウジ領事館で殺害された。米中央情報局(CIA)はムハンマド・ビン・サルマン皇太子の指示だったとの判断を示している。殺害事件を受け、反体制派を一掃しようとする皇太子の野望に世界の目が向けられ、皇太子の改革者としてのイメージは傷ついた。

 ムハンマド皇太子は昨年、サウジ人女性の運転を許可する歴史的な決断を下した。その一方で政府は、まさにそうした女性の権利を訴えかけてきた活動家たちを投獄している。

 米司法省は先ごろ、ムハンマド皇太子の批判者にスパイ行為を働くためツイッターのデータを違法に活用したとして、3人を起訴した。かつて有力だったイスラム聖職者を含め、こうした批判者の多くは投獄され、一部は死刑囚となっている。国内の社会改革に対し、保守派の抵抗がほとんど見当たらない理由の一端はここにある。