世界的なオークションハウス「クリスティーズ」のニューヨーク支社にてアジア人初のワインスペシャリストとして活躍した渡辺順子氏。ベストセラー『教養としてのワイン』の著者であり、最新刊『高いワイン』も話題を呼んでいる彼女に、ボジョレー・ヌーヴォーに関する知識と、その楽しみ方について教えてもらった。

渡辺順子(わたなべ・じゅんこ)
プレミアムワイン代表取締役
1990年代に渡米。1本のプレミアムワインとの出合いをきっかけに、ワインの世界に足を踏み入れる。フランスへのワイン留学を経て、2001年から大手オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。NYのクリスティーズで、アジア人初のワインスペシャリストとして活躍。2009年に同社を退社。現在は帰国し、プレミアムワイン株式会社の代表として、欧米のワインオークション文化を日本に広める傍ら、アジア地域における富裕層や弁護士向けのワインセミナーも開催している。2016年には、ニューヨーク、香港を拠点とする老舗のワインオークションハウス Zachys(ザッキーズ)の日本代表に就任。日本国内でのワインサテライトオークション開催を手がけ、ワインオークションへの出品・入札および高級ワインに関するコンサルティングサービスを行う。著書に『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』『高いワイン』(共にダイヤモンド社)がある。

「ボジョレー・ヌーヴォー」って
どういう意味?

 今年も、11月の風物詩「ボジョレー・ヌーヴォー」の季節がやってきました。今年のヌーヴォーの味わいは? 今年の出来はどうだろう? と心待ちにされている方も多いかと思います。

 ボジョレー・ヌーヴォーとは、ボジョレーでつくられる「ヌーヴォー(新酒)」という意味です。通常、ワインは9月から10月にかけて収穫をおこない、ぶどうを潰して発酵させ、しばらく寝かせてから出荷されます。この熟成期間は、品質や産地を守るために、国が地区ごとに法律で定めています。

 たとえば、ボルドーでは赤ワインで12〜 20ヶ月、白ワインでは10〜12ヶ月の樽熟成が定められています。一方でボジョレー・ヌーヴォーは、わずか数週間の熟成期間で出荷していいと決められており、その最初の出荷日が「解禁日」と呼ばれる11月の第3木曜日なのです。

 ボジョレー・ヌーヴォーが作られるぶどう畑は、フランス・ブルゴーニュ地方のボジョレー村に広がっています。そのため、「ボジョレー・ヌーヴォーの味によって、その年のブルゴーニュワインの出来がわかる」とも言われますが、実はこれは必ずしも正しいわけではありません。

 たとえば、世界で最も高額なワイン「ロマネ・コンティ」が作られる畑も同じくブルゴーニュ地方のヴォーヌ・ロマネ村にありますが、このヴォーヌ・ロマネ村とボジョレー村は、南北に約150キロも離れています。

 そのため、同じブルゴーニュのワインと言っても気象条件が大きく異なり、その年によってそれぞれの出来は異なります。たとえば、ボジョレーの評価が高かった2017年はヴォーヌ・ロマネ村の一般的な評価は低く、反対に2015年はヴォーヌ・ロマネ村が高く、ボジョレーは低く評価されました。

甘味が際立つボジョレーの楽しみ方

 また、収穫から2ヵ月で作るボジョレーと数年の熟成を要するヴォーヌ・ロマネのワインは醸造の仕方も異なります。ボジョレー・ヌーヴォーは、収穫から出荷までの期間が短いため、急速にアルコール発酵させなければいけません。そのため「マセラシオン・カルボニック」と呼ばれる炭酸ガスを用いて発酵を促す醸造法を行います。

 これにより、果皮や種からの渋みが抑えられ、炭酸ガスの圧力と酵素の働きによってタンニンが少なく、フルーティーでフレッシュなワインが造られます。その甘味際立つ味わいは、海外では「フルーツガム」と表現されることもあります。

 そんな特徴のあるボジョレー・ヌーヴォーにどんな食事を合わせるかは、多くの人が頭を悩ませるところです。アメリカでは、甘いクランベリーソースをかけたターキーやパンプキンパイなど、秋の味覚とあわせてボジョレー・ヌーヴォーを堪能するのが定番となっています。日本でもヌーボーの甘みと合わせ、サツマイモや栗などを使った料理とのマリアージュを楽しむのも面白いかもしれません。

 またボジョレーをつかったホットワインもおすすめです。ボジョレー・ヌーヴォーとスライスしたオレンジ、りんご、シナモンを鍋に入れて火にかけ、沸騰しないように気をつけて20分ほど温めます。そして、お好みでハチミツや生姜を入れれば、体の芯から温まるホットワインの完成です。