元サッカー日本代表監督で、現在はFC今治の会長を務める岡田武史氏は、若者向けの事業インキュベーションプログラム「Bari Challenge University(BCU)」を主宰している。今年も、8月19日~25日に愛媛県今治市で6泊7日のワークショップが開催され、日本全国・世界各国から集った23名の若者たちが、今治でのフィールドワークも行いながら、地域課題を解決するモデルを提案した。

岡田武史氏が大絶賛した『直感と論理をつなぐ思考法』の著者・佐宗邦威氏によるBCU初日セッションの模様を、全4回にわたってお届けしている。本記事はその最終回となる(構成 高関進)。

※前回までの記事はこちら
第1回:https://diamond.jp/articles/-/214261
第2回:https://diamond.jp/articles/-/214264
第3回:https://diamond.jp/articles/-/221728

「理想の街ビジョン」を共有しよう

さて、みなさんには「2030年僕らが住みたい街」というテーマの下、この今治という街の「理想」の姿を描いてもらいました。この「ビジョン・スケッチ」というエクササイズのポイントは、いきなり言葉で考えるのではなく、まず絵を描いていただき、最後に「タイトル」をつけるという順番になっていることでしたね。

では、先ほどのペアに戻っていただいて、スケッチを共有しましょう。話す側は「こういうことを考えてこういう絵を描いた」という意図や狙いを話してください。聞き手は、その絵に隠れている魅力や可能性をフィードバックしてあげましょう。

さらに、テーブルのうえにデザイン課題ワークシートというA4用紙が1枚あると思いますので、「自分の絵にはどんな理想状態が描かれているのか」をまず文章で書いてみてください。そして、「ビジョンを具体化していくときには、どんな課題があるだろうか?」について、お互いにブレストしてみましょう。やり方としては、「もし○○だったら××」というフォーマットで考えてみると、隠れている課題が見つかりやすいと思いますよ。なるべく大きな課題を発見してみるようにしましょう。ペアで交代しながら7分ずつ、合計15分でお願いします。それでは、スタート!

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いかがでしたでしょう? どなたか感想をお願いします。

(受講者)「以前、今治で昼間からおじさんたちがお酒を飲んでるような食堂にたまたま入ったんです。で、2度目に行くと、食堂のおばさんがごはんを大盛りによそってくれました。『ひょっとしてお金、多くとられるのかな』って心配していたら、全然そんなことなくて。おばさんは『子どもとか若い人に食べさせることが自分の幸せなんだ』と言っていました。私はそれをヒントに『今治に食堂をつくろう』と思いました。リタイアしたおばあちゃん、おじいちゃんたちが家庭料理をつくる食堂です。今治は農業も漁業もあるので、規格外のものを安く仕入れられる。でも、おじさんたちが昼間から飲んでたら若い子は入りづらいので、ドッグカフェ形式にします。そうすれば、飼い主同士で『うちのワンちゃんは……』みたいな会話もできるし、みんなが集まれる食堂になると思います。あと、今治にいる外国人の方が料理人になって、今日は中華レストラン、明日はベトナム料理というように外国人ともつながれる場になるといいなと。今治はそういうレストランがなかなかないので、そんな食堂がつくれたらなと思いました」

ありがとうございます! 「食」は人をつなげますが、いま、「みんなで食べる場所」がなりつつありますよね。コミュニティや人のつながりは幸せにつながりますが、そういう場所がないと幸せはつくれないでしょう。いまのお話は食の大切さというテーマも隠れていながら、とても生き生きしていて素晴らしいですね。

「必然性」がないと人はつながらない

それ以外の方はいかがでしょう?

(受講者)「みんながコミュニティに所属している状態にしたいです。何かに属しているというのは幸せの要素の1つだと思います。アイデアとしては、スポーツ施設です。今治はスタジアムをもっていますが、いまのところは、サッカーに興味のある人以外は集まりません。それ以外の層をつかむためには、たとえば野球もできるようにしたり、スタジアムのまわりでサイクリングできるようにしたり、シニアが興味をもつシニアスポーツもできればいいと思いました」

ありがとうございました。イギリスでは、孤独問題担当大臣がいるくらい「孤独」がテーマになっています。日本でも、これからは孤独をどう解決していくかが大きなテーマになるでしょう。みんなが集まる場所づくりは、すごく大きなチャレンジになると思います。

他方で、たとえば「つなげる場をつくる」といっても、場所をつくって放っておくだけではダメなんです。生活圏が違ったり、意見や性格の違う人と付き合うことは、やはり人間にはストレスになりますからね。ですから、コミュニティをデザインするうえでは、「つながる必然性」をどうつくり出すかという視点がすごく大事になってくると思います。

「どうすればそのような必然性をつくり出していけるか」ということを課題として設定してみると、もっともっと面白いビジョンに発展していくと思いますね。

明日以降は、実際に今治の街をフィールドワークしていただくことになっています。街を歩いてみると、さまざまな課題が見えてくると思います。ただ、注意していただきたいのが、課題解決だけでは不十分だということです。

課題解決以前に、今日みなさんに描いていただいた「この街にこんなものが見えていたらいいな」とか「この景色がこうなっていたらいいな」といった妄想を忘れないようにしてください。「現実」の街を歩きながら「妄想」に上書きしていく視点で、みなさんにフィールドワークしていただけたらと思っています。

自分の妄想を表現する場を持とう

さて、そろそろ僕のセッションは終わりに近づいてきました。みなさんにお伝えしたかった「ビジョン・ドリブン」という考え方は、まず自分の身体で感じた違和感やワクワクをちょっと「絵」にしてみて、そのあとに「自分なりの言葉」に落とし込んでみるというプロセスをとります。これを繰り返すことで、いままでになかった「自分の世界」を築くことができます。

今回は「妄想-知覚-組替-表現」の思考サイクルのうち、「妄想」と「知覚」を中心に扱ったので、ビジョンを具体的な形にしていく手法については十分にはお話しできませんでしたが、最後に一つだけ、日常でできる簡単なアクションをご紹介します。

「ジャーナリング」という方法で、ノートを開いて、自分が考えていることや感情を思いつくままに書くという方法です。誰に見せないスケッチブックやノートなどに、自分自身の内面を映すスペースをつくり、感情や可能性を吐き出してください。

たとえば、今夜あるいは明朝などに、今日感じたことの振り返りをスケッチブックに文章で書く。それだけです。また、「こんな街をつくりたい」「こういうことを実現したい」というアイデア、妄想や自分のストーリーを書くこともおすすめです。

現代は、いろんな情報に溢れすぎていて処理しきれないことが多かったりしますよね。つねに情報が「大波」となって押し寄せてくる。そんなとき、自分の内面と対話できるような場があると、みなさんが一歩ずつ前に進むための「防波堤」になってくれます。詳しくは『直感と論理をつなぐ思考法』に書いてありますので、興味をもった方はぜひ読んでいただけたらと思います。

それでは、今日はありがとうございました。明日以降もBari Challenge University 2019をめいっぱい楽しんでくださいね。

(おわり)

※「Bari Challenge University」についてはこちらを参照。
http://www.barichallenge-u.org/

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。