元サッカー日本代表監督で、現在はFC今治の会長を務める岡田武史氏は、若者向けの事業インキュベーションプログラム「Bari Challenge University(BCU)」を主宰している。今年も、8月19日~25日に愛媛県今治市で6泊7日のワークショップが開催され、日本全国・世界各国から集った23名の若者たちが、今治でのフィールドワークも行いながら、地域課題を解決するモデルを提案した。

岡田武史氏が大絶賛した『直感と論理をつなぐ思考法』の著者・佐宗邦威氏によるBCU初日セッションの模様を、全4回にわたってお届けしている。本記事はその第3回となる(構成 高関進)。

※前回までの記事はこちら
第1回:https://diamond.jp/articles/-/214261
第2回:https://diamond.jp/articles/-/214264

5つの妄想インタビューでビジョンが具体化する

繰り返しになりますが、このセッションでは最終的に、「2030年僕らが住みたい街」――つまり、どんなことが実現していれば、この今治が10年後にも住みたい街になるかを考えてもらう予定です。

もちろん、決まった答えはありませんので、みなさんの自由です。基本的には、みなさんが明日以降のフィールドワークでこの街をどうとらえ、何をつくっていきたいと考えるかによって、また答えが変わってくるかもしれません。

ただ、いきなり「どんな街にしたいか?」と聞かれても困ってしまうと思いますので、まずは自分のビジョンに気づくためのワークをやってみましょう。

ビジョンというものは、いちばん最初はすごくもろいんです。だから、いきなりそれをチーム全員で共有するのはあまりオススメしません。誰か一人くらいにコソコソっとしゃべるのがちょうどいい。なので、まずはペアになってください。グループ内で「ビジョンパートナー」のペアをつくりましょう。このとき、なるべく男女とか、住んでいる場所が離れているとか、「関係が遠い人」と組むことを意識してみてください。

ペアができたら、みなさんの「夢」を引き出すための「妄想インタビュー」をやっていただきます。みなさんの手元に妄想インタビューのためのA4用紙のワークシートがありますよね?

質問は5つあります。AさんがBさんにインタビューしたら、Bさんは気持ちよく自分の未来を語ってください。AさんはBさんが言ったことをワークシートに書いていきます。5つの質問で7分経ったら交代して、次はBさんがAさんにインタビューしてワークシートに書き込みます。自分一人で考えるのではなく、あえて他人からインタビューをされるようにすることで、ふだんはなかなか出てこない「妄想」を具体化してみるというエクササイズですね。

なお、5項目の質問はこちらのとおりです。

①あなたの子ども時代の夢はなんでしたか?
②あなたが青春時代に憧れていたものはなんでしたか?
③あなたが過去最高に輝いていたのはいつ、どんなときでしたか?
④あなたが、もし3年間の自由な時間と100億円のお金をもらえるとしたら何をしたいですか?
⑤それはなぜですか?

②の青春時代とは「心の青春」ですから、今が真っただ中という方は今憧れていることを話してください。といっても、①~③まではさらっとすませて、④と⑤に時間を使うようにしましょう。④の質問は「仮に今治のために3年間で100億円使えるとしたら何に使うか?」を答えるようにしてくださいね。

インタビュワーの人は、そうやって引き出した「夢」に対して、「そこには誰が、どんな表情で立っていますか?」という質問をすることで、話し手の「夢」のイメージを具体的にするように心がけてください。それではお互いに7分ずつです。よーい、スタート!

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いかがでしたか? 感想をお願いします。

(受講者)「『3年間で100億円』という制限がつけられたことで、『都市そのものを買いたい』という、今まで考えてもいなかった発想が出てきて面白かったです」

ありがとうございます。100億円を使い切る「妄想」というのは、じつは簡単ではないですよね(笑)。100億使えるようなスケールのことを考えないといけません。つまりいままで考えたことのないスケールで考えることで、自分の制約を解くことにもなりますし、逆に「100億でも足りないな」という人にとっては、「だいたいどれくらいのお金があれば、何ができるのか」といったことが考えられるようになる。

自分の考えた妄想の「規模感」を捉えるためのモノサシを一度つくることで、今後、さらに妄想を働かせていくときの基準ができるんですね。

絵を描いているときの自分の感情と対話しよう

では、いよいよこれから、実際に手を動かしながらイメージを具体化していく「ビジョンスケッチ」のエクササイズに入りたいと思います。予告しておいたとおり、このセッションのテーマは「2030年僕らが住みたい街」ですから、みなさん一人ひとりの「理想の今治」を描いてください。みなさんは、今治を「キャンバス」にすることになった場合、この街にどんな絵を描きたいでしょうか?

といっても、最初から具体的な絵を描かなくていいですよ。鉛筆と消しゴムでスケッチブックに描いていただきますが、絵には真ん中と外があります。真ん中にあるものは一番の主題となるものです。

それから、大事なものは具体的に、さほど大事じゃないものは抽象的に描く。これをコントラストといいますが、たとえば表情をちゃんと描きたいものに関しては目を入れるけど、どうでもいいものは点だけなど、大事に描くものとサラっと描くものがある、と意識してください。

エンピツで描いて、違和感が生じたら消しゴムで何度でも消してもらってかまいません。といっても、制限時間はまさかの10分です。その理由は、絵は具体的に描こうとするといくらでも時間をかけられるからです。ラフでいいので、10分という限られた時間のなかで、描きたいものを描いてください。

細部にこだわらなくてもいいです。手を動かしながら描いてみて、どんなことを自分は感じているのか、何にワクワクするのか、どういうことを描いているときにどんな感情になるのかなど、自分の感情と対話しながら手を動かしましょう。

描き終わったら、最後に絵に「タイトル」をつけてみましょう。みなさんが描いた絵にみなさんのどんな夢が描かれているか、やや引いた目で見て言葉にしてください。ポストイットにいくつか「タイトル候補」を書いてみて、そのなかからしっくりきたタイトルを選びます。それではどうぞ!

*     *     *

みなさん、すばらしいですね。面白そうな絵がたくさんありました。描いてみた感想をぜひお願いします。

(受講者)「自分の言葉で語れないビジョンは、やっぱり絵でもなかなか描ききれないなと思いました」

ありがとうございます。ビジョンは「腹落ち」しているかどうかがすごく大事で、自分のなかにストンと落ちていない言葉は人には伝わりません。頭だけで情報を処理していると、絵にもならないんですね。自分の中で絵にできるものは、自分の身体と情報をつなぐ接点になるんじゃないかと僕は思っています。

言葉は世界を創る

ワークショップの様子を見学するFC今治・岡田武史会長

「ビジョン・ドリブン」な思考においては、「絵で考える」ということが起点になります。とはいえ、「言葉は世界を創る」という言葉があるとおり、僕らは最終的には自分たちがやろうとしていることを「言葉」や「記号」で処理せざるを得ません。「絵」のままではいけないんですね。このあたりが知りたい方は、僕の『直感と論理をつなぐ思考法』という本を読んでみてください。

「絵」とか「イメージ」で考えていることを、最終的にどんな「言葉」にするか。言葉の選び方一つで、そのアイデアのエネルギーは大きく変わってくるんです。

たとえば「日本のビジネス界においては、イノベーション力が課題である」というのと、「日本のビジネスマン全員をクリエイティブにしよう」という場合、やはり「課題である」という言葉はエネルギーが弱いんですね。

言葉は何度も何度も繰り返していると、自分のなかの潜在意識に影響を及ぼします。「課題というマイナスがあるので、なんとかしないといけない」という切迫感はたしかにエネルギーを生みますが、切迫感によるエネルギーは少ししかもちません。逆に、「こういうものにしたい!」というプラスの言葉があると、現実を動かすエネルギーも強くなります。

みなさんが考えたビジョン、夢はどんな言葉で語られるでしょうか? それを他人に語ってみたときに、他人もそこに参加したくなるようなエネルギーがあるでしょうか? そういう観点から、絵の「タイトル」を見直してみるといいのではないかと思います。

(次回に続く)

※「Bari Challenge University」についてはこちらを参照。
http://www.barichallenge-u.org/

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。