元サッカー日本代表監督で、現在はFC今治会長の岡田武史氏は、若者向けの事業インキュベーションプログラム「Bari Challenge University(BCU)」を主宰している。今年も、8月19日~25日に愛媛県今治市で6泊7日のワークショップが開催され、日本全国・世界各国から集った23名の若者たちが、今治でのフィールドワークも行いながら、地域課題を解決するモデルを提案した。

岡田武史氏が大絶賛した『直感と論理をつなぐ思考法』の著者・佐宗邦威氏によるBCU初日セッションの模様を、全4回にわたってお届けしている。本記事はその第2回となる(構成 高関進)。

※第1回はこちら
https://diamond.jp/articles/-/214261

4つに分かれる思考法

世の中の思考法は、大きく4つに分かれています。外的な課題(イシュー・ドリブン)ありきか、自分の中の内発的なもの(ビジョン・ドリブン)ありきか。また、今あるものを効率的にして1→∞を目指していくのか、ないものから新たなものをつくる0→1か。この2つを掛け合わせると、2×2で4つの思考法があることになります。

すでにあるビジネスやプロトタイプを改善していく、いわゆるPDCAを回転させていくのがカイゼン思考です。それに対してゴールを設定し、資源を棚卸して再構築し、検証していくのが戦略思考です。デザイン思考は、あるユーザーの課題に共感してプロトタイプをつくりながら検証して回していくという課題解決型の思考です。

4つめのビジョン思考は、みなさんの中にある妄想を見える化し、それに対して自分なりの世界観、メタファーやコンセプトをつくり、具体的な表現として提示していく思考です。自分の内面から出てくるビジョンを具体化し、世に問いかけながら自分らしい独創的なものをつくっていくビジョン思考では、

・ビジョンを具体化するキャンバス
・妄想-知覚-組替-表現の思考サイクル

が重要な2つの要素になります。

自分を表現していく場(キャンバス)をまずつくり、そこで妄想-知覚-組替-表現をぐるぐる回して具体化していくわけですね。

妄想-知覚-組替-表現でビジョンを具体化する

僕はあえて「妄想」といっていますが、妄想は自らを駆動する原動力です。そこへのアクセスの仕方は課題、つまりニーズとウォンツ、それから欲望です。とくに大事なのは、「もしも○○できたらいいな」という自分の欲望起点で考えることですね。

たとえば、イーロン・マスクが語っているような「もし地球以外の星に人類が移住できるとしたら……?」は、とにかくそこを目指したいという欲望が先にあります。実際にやるとなると課題は多いでしょうが、ここには理屈はありません。「こんなことができたらいいのに」という自分の中のモヤっとしたものを言語化し、形にしていくかしないかで、その先の伸び率が全然違います。

2つめが知覚です。複雑なものをありのままに感じる力。先ほど、似顔絵を描くときじっと相手の顔を見ることを体感していただきました。自分がモヤモヤっと考えていることを知覚できれば、言葉ではないもうちょっと具体的な、解像度がある形で表現できるんじゃないかと思っています。

具体的に表現していくときに、3つめの組替力を使います。たとえば当たり前といわれる常識があったとしたら、そこで言われている要素を洗い出していってその逆を考えていくという力です。

ここで大事なのが違和感です。「自分が考えている街づくりは何か違うけど何が違うんだろう、それは今の常識のここが違うんじゃないか」ということを考えながら深堀りしていくわけです。

言葉だけでは表現しきれない自分のこだわりたいことや、雰囲気などを表現できるフォーマットが絵です。これは個性にもつながってきます。みなさん自身が何が楽しいと思っているのか、何が美しいと思っているのか、何が幸せだと思っているか、表現した絵にあらわれるからです。

今お話してきたような妄想-知覚-組替-表現というサークルをグルグル回していきながら、スケッチや絵を周りの人に見せて、「こういうビジョンってどう思う? これが世の中に広がったらどうなるだろうね?」「今後何をやっていったらいいんだろう?」と議論していく。

「妄想」を披露すると、おそらく「バカじゃないの?」と言われることはあるかもしれません。それでもやっぱり共感してくれる人は必ずいるはずです。そうした仲間をちょっとずつ増やしながら妄想を育てていくほうが、世の中に大きなインパクトを与えることができるんじゃないか、というのがビジョン思考の核心の1つです。

では、みなさんの妄想にアクセスし、右脳を使いながらビジョン開発をしていきましょう。

自分の強みを絵にしてみよう

このセッションでは最終的に、「2030年僕らが住みたい街」――つまり、どんなことが実現していれば、この今治が10年後にも住みたい街になるかを考えてもらう予定です。

みなさんは明日以降のフィールドワークでこの今治という街を観察していくことになっていますよね。しかしその前に、まずみなさん一人ひとりの理想の街を描いてみましょう。そのあとで、その理想と現実のギャップに注目すると、真っ先に解決すべき課題が見えてくるはずです。先に現実を捉えるのではなく、理想を描くというところがポイントですね。

さらに大事なのが、「一人ひとりが理想とする今治」と「現実の今治」を「絵」にすることです。「絵」があると理想と現実のあいだにある「差」が見えやすくなるからです。また、各チームには、愛媛県にお住まいの方、愛媛県外からいらした方の両方がいて、そもそもの前提知識にギャップがあると思いますが、「絵」を媒介にすることで具体的な議論がしやすくなるとも思います。

さて、それでは「理想の街」を考えていく前に、「絵にするトレーニング」も兼ねて、チームメンバーが持っているお互いの強みを共有してみることにしましょう。そこでやっていただくのが「落書きエクササイズ」です。

テーブルの上に用意してある黄色と青のポストイットと筆ペンをお使いください。1人1色のポストイットを20枚取ってください。

僕がこれからいくつかの言葉を提示しますので、1分で1枚のポストイットに絵を描いてください。要するに、言われた「言葉」を「絵」だけで表現する練習ですね。うまい下手は関係ありませんので、思い切って描いていただければと思います。

では1つめの言葉です。1つめは「人間」。これを「絵」で表現してみてください。

では次は「お金」。コツはとにかく手を動かすことです。立ち止まって考えない。手を動かしながら考えましょう。

3つめは「ビジョン」です。みなさんが思い描く「ビジョン」のイメージを描いてください。こうした抽象的なもののほうが面白いですね。

4つめは「今治」。今治を「絵」にするとき、あなたはどうしますか? 今治と聞いてイメージするものを描いてみてください。

最後は、「あなたの強み」です。これは1分で5枚書いてください。強みとは、あなたがこのチームに貢献できることです。「○○に詳しい」でも「××が好き」でも、なんでもけっこうです。「強み」に関しては絵の下に「こんな意味です」という言葉を描いてもかまいません。

*     *     *

描き終えたら、言葉ごとにテーブルに並べて貼ってください。同じ言葉に対して、各メンバーがどういう絵を描いたか一目瞭然になるようにして、お互いに見比べてみましょう。

強みに関しては、それを描いた理由などを聞いてみたり、どういう意味かなど質問しながら対話してみてください。それではどうぞ!

絵はみんなの発想を連鎖させる

いかがでしたでしょうか? 絵で描くことで、すごく多様性が出るんです。たとえば、「ビジョン」や「戦略」という言葉を聞いたとき、誰もが「知ってる、知ってる」と思うじゃないですか。でも、他人と話していると、話が食い違うことが出てくる。これはなぜかというと、お互いに「言葉」は知ってても、その「イメージ」が違うからなんです。

僕らは表面的にはわかっているようで、わかってない。そのことに気づくためには、絵にするのが非常にいい方法なんです。

さらに効果的なのが、こうやって自分と他人の「イメージ」の違いを可視化して、見比べてみることです。こうやって自分とは別の発想に触れることによって、「ああ、こういう捉え方も確かにあるな」という気づきが生まれると、発想の連鎖が起こり安くなります。これはクリエイティビティを生んでいくうえで非常に大事です。

たとえば、「10年後の今治のあり方」に関するアイデアを出すという場合、言葉だけで考えるのではなく、「10年後にはこういう人がこんなことをやっている」というシーンを描くと、ほかの人が「この横ではこんなことも起きているんじゃない?」とか「むしろ、こういう形もあるんじゃないの?」といったように、アイデアを拡散させていくことができるんです。

絵を使ってアイデア出しをすることで、いろいろな人のアイデアをつなぎ合わせやすくする。いろんな人のアイデアを組み合わせることで、新しいアイデアが生まれやすくなる。絵で考えるということには、そういう効果があるんです。

(次回に続く)

※「Bari Challenge University」についてはこちらを参照。
http://www.barichallenge-u.org/

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。